うと下《さが》りまして、呆れて又市の顔を見て居りました。
又「怖がって逃げんでも宜《え》いじゃないか」
やま「あらまア貴方《あなた》御冗談ばかり仰しゃって困りますよ」
又「困る訳はない、宜《よ》いじゃアないか、えゝ只《たっ》た一度でもお前|私《わし》の云う事を聴いて呉れたら、お前の為には何《ど》の様《よう》にも情合《じょうあい》を尽そうと思うて居る」
やま「御冗談でございましょう、貴方の様な方が私《わたくし》の様な者にそんな事を仰しゃっても私は本当とは思いません」
又「何故《なぜ》、私《わし》は年を取って冗談やおどけにお前さん此様《こん》な事を言掛ける事はない、お前さん、実は疾《と》うから真に想うても云出し兼ていたが、酔うた紛れに云うじゃアないけれども、お前さん私は只《たっ》た一度で諦めますぜ」
やま「あなた本当に仰しゃるのですか」
又「本当だって今まで如何《いか》にも好《よ》い娘じゃアと思うても色気も何も出やアせぬが、けれども朝夕膏薬を貼替えて呉れる其の優しい手で額を斯《こ》う押えて呉れまする、其のどうも手当に私《わし》は惚れた、さア最う斯う云い出したら恥も外聞もないじゃア、誰《たれ
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