一生懸命本堂へ逃げ上《あが》ったが、本堂の様子が分らねえから、木魚に蹴躓《けつまず》いてがら/\音がしたので、驚いて跡から追掛《おっか》けるのかと思ったが、然《そ》うじゃアないので、又逃げようとすると、がら/\/\と位牌が転がり落る騒ぎ、何うか彼《こ》うか逃げましたが、いまだに経机の角で向脛《むこうずね》を打った疵《きず》は暑さ寒さには痛くってならねえ」
庄「怖《おっ》かねえことであったのう」
傳「それが此処で遇おうとは思わなかったが、お互いに苦労人の果だ」
典「時に改って貴公にお頼み申したいことがあるが、今の婦人は主《ぬし》はないのか」
傳「えゝ主はない、たった姉弟《きょうだい》二人で弟は十六七で美《い》い男さ、此の弟は姉さん孝行姉は弟孝行で二人ぎりです」
典「親はないのか」
傳「ないので、伯父さんの厄介になって機《はた》を織ったり糸を繰《と》ったり、彼《あ》のくらい稼ぐ者は有りませんが、柔《やさ》しくって人柄が宜《い》い、いやに生《なま》っ世辞《せじ》を云うのではないから、あれが宜《よ》うございます」
典「拙者《てまえ》も当地へ来て何うやら斯うやら彼《こ》うやって、家《うち》を持っ
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