あいた……いけません、遊女屋で柔術《やわら》の手を出してはいけません、私《わたし》どもの云う事を聴くのではございませんから」
 と詫《わ》びても聞き入れず、若者《わかいもの》の胸ぐらを取って捻上《ねじあ》げました。

        三

 大騒ぎになりますと、此の事を小増が聞き、生意気|盛《ざかり》の小増、止せば宜《よ》いのに胴抜《どうぬき》の形《なり》で自惰落《じだらく》な姿をして、二十両の目録包を持って廊下をばた/\遣《や》って来て、障子を開けて這入って来ました。又市は腹を立って居たが、顔を見ると人情で、間の悪い顔をしている。
小増「一寸《ちょっと》又市さん何をするの、藤助どんの胸倉をとってさ、此の人を締殺す気かえ、遊女屋の二階へ来て力ずくじゃア仕様がないじゃアないか、今聞けばお金を返せとお云いだね」
又「これさ返せという訳ではないが、お前が一度も来てくれんからの事さ、来てさえ呉れゝば宜しい、今まで度々《たび/\》参っても、お前がついに一度も私《わし》に口を利いたこともないから、私はどうも田舎侍で気に入らぬは知っているが、同役の者にも外聞であるから、せめて側に居て、快く話でもして
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