梅「旦那々々」
永「えゝ」
梅「もう、此処《ここ》には居られないからお立ちよ、早くお立ちよ」
永「立つと云っても直《すぐ》に立つ訳にはゆかん」
梅「いかぬたってお前さん怖いじゃア無いか、此処は剣《つるぎ》の中に這入って居るような心持がして、眞達の親父と云う事が知れては」
永「これ/\黙ってろ、明日《あした》直に立つと、おかしいと勘付かれやアしないかと脛《すね》に疵《きず》じゃ、此の間も頼んで置いたが、広瀬《ひろせ》の追分《おいわけ》を越える手形を拵《こしら》えて貰って、急には立たぬ振《ふり》をして、二三日の中《うち》にそうっと立つとしようじゃア無いか」
梅「何うかしてお呉んなさい、私は怖いから」
 とその晩は寝ましたが、翌朝《よくあさ》になりますと金を遣《や》って瞞《ごま》かして、何うか斯《こ》うか広瀬の追分を越える手形を拵えて貰い、明日立とうか明後日《あさって》に為《し》ようかと、こそ/\支度をして居りますると、翌日|申《なゝつ》の刻下《さが》りになりまして峠を下って参ったのは、越中富山の反魂丹を売る薬屋さん、富山の薬屋さんは風呂敷包を脊負《しょ》うのに結目《むすびめ》を堅く縛りませ
前へ 次へ
全303ページ中118ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング