申す者がございまして、越後高田《えちごたかた》のお国では鬼組《おにぐみ》と申しまして、お役は下等でありますが手者《てしゃ》の多いお組でございます。この水司又市は十三歳の折両親に別れ、お国詰《くにづめ》になり、越後の高田で文武の道に心掛けまして、二十五の時江戸詰を仰付けられましたので、とんと江戸表の様子を心得ませんで、江戸珍らしいから諸方を見物致して居りましたが、ちょうど紅葉《もみじ》時分で、王子《おうじ》の滝《たき》の川《がわ》へ往《い》って瓢箪《ふくべ》の酒を飲干して、紅葉を見に行《ゆ》く者は、紅葉の枝へ瓢箪を附けて是を担《かつ》ぎ、形《なり》は黒木綿の紋付に小倉の襠高袴《まちだかばかま》を穿《は》いて、小長《こなが》い大小に下駄穿きでがら/\やって来まして、ちょうど根津権現《ねづごんげん》へ参詣して、惣門内《そうもんうち》を抜けて参りましたが、只今でも全盛でございますが、昔から彼《あ》の廓《くるわ》は度々《たび/\》潰《つぶ》れましては又|再願《さいがん》をして又立ったと申しますが、其の頃贅沢な女郎《じょうろ》がございまして、吉原の真似をして惣門内で八文字《はちもんじ》で道中したな
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