、庄吉の帯を捕《とら》えて、
源「さア出ろ/\」
と引出《ひきいだ》す。
庄「こりゃはい迚《とて》も/\、どもはや私《わし》は見て居《お》ったので」
自分の掴まえて居《い》る帯を放せば宜《よ》いに、先の人の帯を確《しっ》かりと捉《とら》えて居たからずるずると共に引摺《ひきず》られて出るのを見ると、顔色《がんしょく》変じて血に染《そ》みた七兵衞の死骸が出ますと云う、これから永禪和尚悪事露顕のお話、一寸一息つきまして。
二十二
お話は両《ふたつ》に分れまして、大工町の藤屋七兵衞の宅へ毎夜参りまして、永禪和尚がお梅と楽しんで居ります。すると丁度真夜中の頃に表の方から来ましたのは眞達と申す納所坊主…とん/\、
眞「お梅はん/\ちょと明けてお呉《く》んなさい」
梅「はい…旦那、眞達はんが来ましたよ」
永「あゝ来やアがったか、居ないてえ云え、なに、いゝえ来ぬてえ云えよ」
梅「あの眞達さん、何の御用でございますか」
眞「旦那にお目に懸りたいのでげすが、何《ど》うぞ一寸《ちと》和尚さんに逢わしてお呉んなさい」
梅「旦那はあの今夜は此方《こちら》にお出でなさいませんよ」
眞「そんな事を云うても来てえるのは知っているからえけません、宵にお目に懸って此方《こっちゃ》に泊っても宜《え》いと云うたのだから」
永「じゃア仕方がない、明けて遣《や》れ」
と云うので、仕様がないからお梅が立って裏口の雨戸を明けますると、眞達はすっとこ冠《かぶ》りにじんじん端折《ばしょり》をして、跣足《はだし》で飛込んで来ました。
永「何《なん》じゃ、どうした」
眞「お梅はん、後《あと》をぴったり締めてお呉んなさい、足が泥になってるから此の雑巾で拭きますからな」
永「何う為《し》よったじゃア、深更《しんこう》になってまア其の跣足で、そないな姿《なり》で此処《こゝ》へ来ると云う事が有るかな、困った者《もん》じゃア、此処へ来い、何うした」
眞「和尚さん最前なア、私《わし》ア瞽女町で芸者買って金が足りないから貴方《あなた》に十両貸してお呉んなさいましと、まアお願い申しましたが、あの金と云うものは実はその芸者や女郎《じょうろ》を買ったのではないので、実はその庄吉の部屋でな賭博《ばくち》が始まって居ります所へ浮《うっ》かり手を出して負けた穴塞《あなふさ》ぎの金でございます」
永「此奴《こいつ》悪い奴じゃアぞ、己《おの》れ出家の身の上で賭博を為《す》るとは怪《け》しからん、えゝ何じゃア其様《そん》な穴塞ぎの金を私《わし》にを借《かり》るとは何ういう心得じゃア」
眞「それは重々《じゅう/\》悪いがな、あれから帰って庄吉の部屋で賭博して居りますと、其処《そこ》へ二番町の町会所から手が這入ったので」
永「それ見ろ、えらい事になった、寺へ手の這入るというは此の上もない恥な事じゃアないか、どゞゞ何うした」
眞「私《わし》も慌《あわ》てゝな庭の物置の中へ隠れまして、薪の間に身を潜めて居りますると、庄吉め本堂の縁《いん》の下へ逃げて這込んで見ると、先に一人隠れて居《え》る奴が、ちま/\と其処に身を潜めて寝《ねま》って居ります所へ、庄吉が其奴《そやつ》の帯へ一心に噛《かじ》り付いて居《え》る所へ、どか/\と御用聞《ごようきゝ》が這入《はえ》って来て、庄吉の帯を取ってずる/\と引出すと、庄吉が手を放せば宜《え》いに、手を放さぬで居《え》たから、先に這入《はえ》った奴と一緒に引ずり出されて来る、庄吉は直《すぐ》に縛られてしまい、又是は何者か顔を揚げいと髻《たぶさ》を取って引起すと若《も》し……此処《こゝ》な家《うち》の夫《とゝま》の七兵衞さんの死骸が出たのじゃが」
永「えゝ何……死骸それは……どゞどうして出た」
眞「何うして出たもないもんじゃ、あんたは此所《こゝ》なお梅はんと深い中になって、七兵衞さんが在《あ》っては邪魔になるからと云うので、あんた七兵衞さんを殺して縁《いん》の下へ隠したじゃろう、隠さいでも宜《え》いじゃアないか、えゝ左様《そう》じゃないか、直ぐに庄吉は縛られて二番町の町会所へ送られ、私《わし》は物置の中に隠れて居《え》て見付からなかったから、漸《ようよ》う這出して、皆出た後《あと》でそうっと抜出して此処まで来たのでげすがな、私がぐずぐずしてると直《すぐ》に捕《つか》まります、捕まって打叩《ぶちはた》きされて見れば、庄吉は知らぬでも私は貴方《あんた》が楽しんで居《え》る事は知って居《え》るから、義理は済まぬと思いながらも打《ぶ》たれては痛いから、実は師匠の永禪和尚はお梅はんと悪い事をして居ります、それ故七兵衞さんを殺して縁《いん》の下へ隠したのでございましょうと私が云うたら、あんたも直に縛られて行って、お処刑《しおき》を受けんではなるまいが、そうじゃないか」
永「ふ
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