《け》しからぬ事で、眞達は少しも知らぬのに勧められて[#「勧められて」は底本では「勤められて」]為ると負ける。
傳「眞達さん冗談じゃねえ、おいお前金を返さなくっちゃアいけねえ」
眞「今は無《な》えよ」
傳「今無くっちゃア困るじゃアねえか」
眞「無《ね》え物を無理に取ろうて云うも無理じゃアねえか、だらくさい事を云いおるな」
傳「無《ね》えたってお前|己《おれ》が受ければ払いを附けなければ成らねえ」
眞「今|無《な》えから袈裟文庫《けさぶんこ》を抵当《かた》に預ける」
傳「こう袈裟文庫なんぞ己《おら》っちが抵当に預かっても仕様がねえ」
眞「是が無くては法事に往《い》くにも困るから、是をまア払うまで預かって」
傳「そんな事を云って困るよ、おい眞達さん一寸《ちょっと》聞きねえ、まア此処《こゝ》へ来《き》ねえ」
 と次の間へ連れて往《い》きまして
「こうお前《めえ》和尚に借りねえ」
眞「師匠だって貸しはしなえ」
傳「貸すよ」
眞「いや此の間|私《わし》が一両貸しゃさませと云うたら何に入るてえ怖ろしい眼《まなこ》して睨《ねら》んだよ、貸しはせんぞ」
傳「お前《めえ》いけねえ、和尚は弱い足元を見られて居るぜ、お前知らねえのか、藤屋の亭主は留守で和尚は毎晩しけ込んで居る、一箇寺《いっかじ》の住職が女犯《にょはん》じゃア遠島になる、己《おら》ア二度見たぜ」
眞「じゃア藤屋の女房《じゃあま》と悪い事やって居るか」
傳「やって居るよ、己ア見たよ」
眞「それははや些《ちっ》とも知らぬじゃ」
傳「斯《こ》う為《し》ねえ、彼処《あすこ》へ往ってお前が金を貸してと云えば、否応《いやおう》なしに貸そうじゃアねえか」
眞「成程、じゃア私《わし》が師匠に逢《お》うてお前様お梅はんと寝て居りみすから、私に何うか賭博《ばくち》の資本《もとで》を貸してお呉んなさませと云うか」
傳「そんな事を云っちゃア貸すものか、そこがおつう訝《おか》しく云うのだ、人間は楽しみが無くってはいけません、私《わたくし》も女を抱いては寝ませんが、瞽女町へ往って芸者を買ったとか、娼妓《じょうろ》を買ったとか、旨いものが喰いたいから、二十両とか三十両とか貸せと云えば、直《じ》きに三十両ぐらえは貸すよ、お前《めえ》さんはお梅さんの酌でお楽《たのし》みぐらいの事を云いねえ」
眞「むう、巧《うま》い事を教えて呉れた、有難い/\」
 と悦びま
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