ひとうち》に致しましたが、これが悪い事を致すと己《おのれ》の罪を隠そうと思うので、また悪事を重ねるのでございますから、少しの悪事も致すもので有りません。少しの悪事でも隠そうと思って又重ねる、又其の罪を隠そうと思っては悪事を次第々々に重ねて猶《なお》また悪事に陥ります。毛筋ほどでも人は悪い事は出来ませんものでございます。永禪和尚は毒喰わば皿まで舐《ねぶ》れと、死骸をごろ/\転がして、本堂の床下へ薪割で突込《つきこ》みますのは、今に奉公人が帰って来てはならぬと急いで床下へ深く突入《つきい》れました。
十九
お繼という七兵衞の娘は今年十三になりますが、孝心な者でございます。母親《おふくろ》が居りませんに、また父親《おやじ》が見えませんから、屹度《きっと》宗慈寺様へ行って居《い》るので有ろうと、自分も何時《いつ》も此の寺へ参りますと、和尚に物を貰って可愛がられるから度々《たび/\》参りますので、勝手を存じて居りますから、
繼「お父様《とっさん》は居りませんか、お母《っか》さんは」
と納所部屋を捜しても居りません。すると本堂の次が開いて居りますから、其処《そこ》へ来ると草履《ぞうり》が有りますから庭へ下りまして、
繼「おや和尚様お母さんは居りませんか、お父様は」
と屈《こゞ》んで云いましたが、女の子は能《よ》く頭《かしら》を斯《こ》う横にして下を覗《のぞ》く様にして口を利くものでございますが、永禪は只《と》見ると飛んだ処へ来た、年は往《い》かぬが怜悧《りこう》な娘、こりゃ見たなと思ったから、物をも云わず永禪和尚柄の長い薪割を振上げて追掛《おっか》けたが、人を殺そうという剣幕、何《なん》ともどうも怖いから、
繼「あれえ」
ばた/\/\/\/\/\/\と庭を逃げる、跡を追掛けて行《ゆ》き、門の処まで追掛け、既に出ようとする時お梅が帰って来て、
梅「まア旦那何うなすったよ、みっともないよ」
永「おゝ宜《い》い処へ来た」
梅「もし何ですよ、お繼はキエ/\と云って駈けて往《ゆ》きましたが、貴方もみっともないよ跣足《はだし》でさ」
永「一寸《ちょっと》お前|此処《こゝ》へ来な……お梅はん、お繼が逃げたから最《も》う是までじゃア、詮事《しょこと》がない、さア私《わし》も最早命はない、お前も同罪じゃでなア、七兵衞さんはお前と私《わし》の間《なか》を知って五十両金の
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