》へ来ると直《す》ぐ知れた、若いうち惚れたから知れるも道理、私は頭ア剃《そり》こかして此の宗慈寺へ直って、住職して最《も》う九年じゃアが、斯《こ》うなってから今まで女子《おなご》は勿論|腥《なまぐさ》い物も食わぬも皆お前故じゃア」
梅「私ゆえとは」
永「忘れやアしまい、お前が斯様《かよう》じゃア、榊原藩の中根善之進は間夫《ふかま》じゃアからと云うて、金を私《わし》の膝へ叩き付けてな忘れやアしまい」
梅「あれ昔の事を云っては困りますね、年の往《い》かない中《うち》は下《くだ》らないもので、女郎《じょろう》子供とは宜《よ》く云ったもので、冥利《みょうり》が悪いことで、その冥利で今は斯うやって斯う云う処へ来て、貧乏の世帯《しょたい》にわく/\するも昔の罰《ばち》と思って居りますよ」
永「丁度あのそれ忘れやアせんで、あの時叩付けられたばかりでない、大勢で悪口《あっこう》云われ、田舎武士と云って、手前などが女子《おなご》を買っても惚れられようと思うは押《おし》が強いなどと云って、重役の権《けん》を振《ふる》って中根が打擲《ちょうちゃく》して、扇子の要《かなめ》でな面部を打割られたを残念と思って、私《わし》は七軒町の曲角《まがりかど》で待伏《まちぶせ》して、あの朝善之進を一刀に切ったのは私じゃアぜ」
梅「あれまアどうも」
永「宜《よ》えか、斯《こ》う打明けた話じゃが切ってしまって眼が醒《さ》めて、あゝ飛んだ事をしたと思ったがもう為《し》てしまい是非がない、とても屋敷には居《い》られない、外《ほか》に知己《しるべ》がないから風《ふ》っと思い付き、此処《こゝ》に伯父が住職して居るから金まで盗んで高飛《たかとび》し、頭を剃《そっ》こかして改心するから弟子にしてと云うて、成らぬと云うを強《たっ》て頼み、斯う遣《や》って今では住職になって、十三年も衣を着て居るもお前故じゃないか、人を殺したのもお前故じゃ」
梅「何うもねえ、然《そ》うで、何うもねえまア、何うもねえ、元は私が悪いばかりで中根さんも然ういう事になり、罪作りを仕ましたねえ」
永「七兵衞さんは知るまいが、金を貸すもお前故だ、是まで出家を遂《と》げても、お前を見て私《わし》は煩悩が発《おこ》って出家は遂げられませんぜ」
梅「お前さん……あれ、何をなさる、いけませんよ、眞達さんが帰るといけません、あれ」
永「私《わし》ももう隠居しても
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