の心配を致しました故《せい》か、初めて病と云うものを覚えて、どうと枕に就《つ》きまする。加納屋の亭主も種々《いろ/\》心配致しまするが、連《つれ》の者が居るから手当は出来ようと医者を連れて来て薬を貰い、種々と手当を致しますが、何分にも山之助の病気は容易に全快致しません。此の中《うち》の介抱は皆お繼が致して遣りますが、女で親の敵を討とうと云う位な真心《まごゝろ》な娘でございますから、赤の他人の山之助をば親身の兄を労《いた》わるように、寝る目も寝ずに親切に介抱を致します。山之助は心配をいたして種々と申しますると、
繼「なに仮令《たとえ》半年一年の長煩《ながわずら》いをなすっても私が御詠歌を唄って報謝を受けて来れば、お前さん一人位に不自由はさせません、それに私も少しは儲《たくわ》えが有るから、まア/\決して心配をなさるな」
と云って山之助に力を附けます。また時々塩を貰って温石《おんじゃく》を当てる、それは実に親切なもので。すると俗に申す通り一に看病二に薬で、お繼の親切が届いて其の年の暮には追々と全快致し、床の上に坐って味噌汁位が食えるように成りましたから、お繼は悉《こと/″\》く悦んで、或日のこと、
繼「山之助さん、今日は余程《よっぽど》お加減が宜うございますねえ」
山「お繼さん誠に有難う、私はまア斯様《こんな》にお前さんの介抱を受けようとは思いませんかったが、不思議な縁で連に成ったのも矢張《やっぱり》笈摺を脊負《しょ》ったお蔭、全く観音様の御利益《ごりやく》だと思います、実に此の御恩は死んでも忘れやア致しません」
繼「何う致しまして、斯《こ》んな事はお互でございます、お前さんも西国巡礼私も西国を巡《めぐ》るので、一人では何だか心細うございますが、一緒に行《ゆ》けば何処《どこ》を流しても同行二人でお互いに力に成りますから」
山「誠に有難いことで」
繼「山之助さん、誠に寒くていけませんし、斯う遣《や》って別々に長く泊って居りますと、蒲団の代ばかりでも高く付きますから、私の考えでは蒲団を返してしまって、下へはお前さんと私の着物などを敷いて左様《そう》して上に一枚蒲団を掛けて、一緒に寝る方が宜《よ》いかと思いますが、お前さん厭でございますか」
山「えゝ寝ても宜うございますけれども、お前さんが男なら宜いが、女だからねえ、私は何うも一緒に寝るのは悪うございますから」
繼「何も宜《
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