》しばって居りますから、自分に噛砕《かみくだ》いて、漸《ようや》くに歯の間から薬を入れ、谷川の流れの水を掬《すく》って来て、口移しにして飲ませると薬が通った様子、親切に山之助が摩《さす》って遣りますと、
繼「有難う/\」
山「お前さん確かりなさいよ」
繼「はい」
山「大丈夫です、私は胡散《うさん》な者じゃアございませんよ、私はお前さんと後先《あとさき》に成って洗馬から流して来た巡礼でございますよ」
繼「はい有難う怖い事でございました」
山「成程お前さんは何うなすったの」
繼「何うしたんでございますか人違いでございましょうが、私が山路に掛って来ると、後《あと》から大きな侍が追掛けて来まして、左様《そう》して私にねえ、汝《てめえ》は白島の山之助とか何とか云って、誠に久しく逢わなかったが汝の姉のおやまゆえに斯んな浪人に成ったから、汝の持ってる金を取って意趣返しをすると云うから、私は左様《さよう》な者で無いと云いますと、突然《いきなり》脇差を抜いたから、一生懸命に逃げようと思って足を踏外して、此処へ落ちましてございます」
山「それはお気の毒様、それじゃア私と間違えられたのだ、白島の山之助と云いましたか」
繼「はい」
山「その男は何と云う奴で」
繼「あの柳田典藏とか云いました」
山「それは大変、何うもお気の毒様、お前さんを私と間違えたのでございます」
繼「左様《そう》でございますか、私はそんな者でないと言いわけを云っても聞きませんで」
山「そりゃア全く私の間違いです、お…前さん女でございますねえ」
繼「いゝえ」
山「それでも今私が抱いて起した時に乳が大きくて、口の利き様も女に違いないと思います」
繼「左様でございますか、私は本当は女でございます」
山「左様でしょう、それじゃア私はお前さんと間違えられたのだ、私が山道へ掛ると胡麻の灰が来て汝《てめえ》は女だろうと云うから、いえ私は女ではないと云うと、そんな事を云っても乳を見たから女に違いない、金を持ってるから出せなんと云って私の頬片《ほっぺた》を嘗《な》めやアがったから、其奴《そいつ》の横面《よこつら》を打《ぶ》った処が、脇差を抜いたから、私は一生懸命に泥坊/\と云って逃げる途端に、足を踏外して此処へ落《おっこ》ちたんだ」
繼「おやまアお気の毒様」
山「私の方がお気の毒様だ」
繼「お前さん何処《どこ》へお出でなさるの」
山「私は
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