えます、もし旦那様、私《わし》も何うも、それは止《よ》すが宜《よ》いとは云い悪《にく》うござりますが、何うしたら宜うございましょう」
四十七
和「これは何うも留《とめ》ることは出来ぬなア、思い立ったら遣《や》るが宜い」
萬「遣るたって何うも私《わし》は主人の娘が敵討をすると云うなら、一緒に行《ゆ》きてえのだが、今いう通り婆が死に掛って居るから、それを置いて行く訳にもいきませんが、一人で行《い》かれましょうか」
和「いや其処《そこ》は所謂《いわゆる》観音力で、何《ど》んな山でも何んな河でも越えられるのが観音力じゃ、敵を討ちたいという的《まと》が有って信心して札を打てば、観音の功力《くりき》で見事敵を討遂《うちおわ》せるだろう、こりゃア望《のぞみ》の通り立たせるが宜《よ》い」
萬「はい/\/\」
和「じゃア斯《こ》うしよう、是は追々に預かった小遣の貰い溜め、また別に私《わし》が遣りたい物もあり、檀家から貰うた物も有ります、沢山《たんと》持って行《ゆ》くのは危いから、襦袢の襟や腹帯に縫い付けてなア、旅をするには重いから、軽い金に取換えて、そうして私が路銀に足して二十両にして遣ろうかえ」
繼「有難う存じます」
萬「私《わし》も遣りてえが、銭がねえ、此処《こゝ》にある一分二朱と二百文、これを皆《みんな》遣ってしまおう、さ私は是れが一生懸命に遣るのだ」
繼「有難う存じます」
是から檀家へ此の話を致しますると、孝行の徳はえらいもので、彼方此方《あちらこちら》の檀家から大分《だいぶ》餞別が集まって、都合三十両出来ました。その内二十両はぴったりと腹帯肌襦袢に縫付けて人に知れぬように致し、着慣れませぬ新らしい笈摺を引掛《ひきか》け、雪卸《ゆきおろ》しの菅《すげ》の笠には同行二人《どうぎょうににん》と書き、白の脚半に甲掛草鞋《こうがけわらじ》という姿で、慣れた大工町を出立致しまする。其の時には土地の者も憐《あわ》れに心得て、とうとう坂井まで送り出したと申す事でござります。これから先《まず》高田へ来ましたのは、水司又市は以前高田藩でございますから、若《も》しも隠れて居りはせぬかと、高田中を歩きましたが、少しも心当りがございませんから、此処を出立して越後路を捜したが、頓《とん》と手掛りが有りません。だん/\尋ねて新潟へ参ると、新潟は御承知の通り人出入りの多い処でございま
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