え存じますが、何うも婆の方が先へ死にそうで……いゝえなに老病《としやみ》でござりましょうから、思うように宜くはなりません、それ故に御無沙汰を、えゝ只今急にお使で急いで出ましたが、何か御用で」
和「あいまア此処《こゝ》へ来なさい」
萬「へえ御免を蒙ります」
和「さて萬助どん、外《ほか》の訳じゃア無いが、まアお前の頼みに依って私《わし》が処《とこ》へ逃込んで来て、何う云うものか、それなりにずる/\べったりに成って居《い》るのは、藤屋《ふじや》の娘のお繼じゃて」
萬「はい/\/\、何うも御厄介でござりまして、誠にはア私《わし》が貧乏な日傭取《ひようとり》で、育てる事も出来ませぬなれども、私の主人の娘で何《ど》の様《よう》にもとは思いましたが、ついはや好《よ》い気になって和尚様へ押付放《おしつけぱな》しにして何《なに》ともお気の毒様、へえ誠に有難い事でござりまして、若し此方《こなた》が無ければ致し方のないわけでござります」
和「誠に彼《あれ》は怜悧《りこう》な者でなア、此処へ遁込《にげこ》んでから、私《わし》が手許を離さずに側で使うて居《い》る、私が塩梅《あんばい》悪いと夜も寝ずに看病をする、両親が無いとは云いながら年の行《ゆ》かぬのに、あゝ遣《や》って他人の世話をするのは実に感心じゃ、実にそりゃア立派な者も及ばぬくらい、それで私は彼が可愛いから、小さい時分から袴を着けさせて、檀家へ往《ゆ》く時は必ず供に連れて行《ゆ》くと、彼も中々気象が勝って居て、男の様で、ベタクサした女の様な事が嫌いだから、今迄は男のつもりで過ぎたが、もう今年は十六歳じゃ、十六と成っては若衆頭《わかしゅあたま》でも何処《どこ》か女と見え、臀《しり》もぼて/\大きくなり、乳房もだん/\大きくなって何様《どない》な事をしても男とは見えないじゃ、すると中には口の悪い者が有って、和尚様はまア男の積りにして彼《あ》の娘を夜《よ》さり抱いて寝るなどゝ云う者も有るで、誠に何うも困るて、それからまア何うか相当の処が有ったら縁付けたいと思って居ると、彼も方々で可愛がられるから、少し宛《ずつ》の貰い物もある、処が小遣や着る物は皆私に預けて少しも無駄遣いはせんで、私の手許に些少《ちっと》は預りもあり、私も永く使った事だから、給金の心得で貯《の》けて置いた金も有るじゃ、それに又少し足して、十両二十両と纒《まとま》った金が出来た
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