理恋慕を言掛けて此の始末に及ぶと云うは悪《にく》い奴、お山何か思い置く事が有りはしないか」
と云うと、山之助も涙ばかり先立ち、胸が閉じて口を利く事も出来ませんが、漸《ようや》くに気を取直して。
山「姉《ねえ》さん/\確《しっか》りしてお呉んなさいよ、今お医者様を呼びに遣《や》りましたから、確かりしてお呉んなさいよ」
と云う。伯父もお山の傍《そば》へ参り耳に口を寄せて、
多「お山やア/\しっかりして呉れよ」
と呼びまする。その声が耳に入《い》ったから、がくりッと心付いて、起上って見ると、鼻の先に伯父が居り弟も居りますが、もう目も見えなくなりましたが、やっと這出して山之助の手を握り、
やま「山之助」
山「あい姉《あね》さん確かりしてお呉んなさいよ伯父さんも此処《こゝ》へ来て居ますよ、村方の百姓衆も大勢来て、手分をして又市の跡を追手《おって》を掛けましたから、今にお前さんの敵《かたき》を捕えて、簀巻《すまき》にして川へ投《ほう》り込むか、生埋《いきうめ》にして憂目《うきめ》を見せて遣ります、姉さん今にお医者様が来ますから、確かりしてお呉んなさい」
やま「伯父さん」
多「あい此処に居りやすから心を慥《たし》かに持ってな、此の位の傷では死にやアしなえから、必ず気を丈夫に持たねえではいけないぞ」
やま「あい伯父さん、永々御厄介になりまして、十六年あとにお父様《とっさま》が屋敷を出て行方知れずになってから、親子三人でお前様のお世話になり、其の中《うち》お母様《っかさま》も亡くなってからは、山之助も私もお前様に育てられ、お蔭で是れまでに大きく成りましたから、山之助に嫁を貰って、私はお前|様《さん》のお力になり、御恩を送る積りで居りましたが、何の因果か悪人の為に、私は伯父さんもう迚《とて》も助かりません、これまで信心をして、何卒《どうぞ》御無事でお父様がお帰り遊ばすようにと、無理な願掛《がんがけ》を致しましたが、一目お目に懸らずに死にまするのは誠に残念でございます、私の無い跡では猶更身寄頼りの無い弟、何卒目を掛けて可愛がって遣って下さい、よ伯父さんお頼み申しますよ」
多「あいよ、そんな心細い事を云って己も娘ばかりでござりやすし、外《ほか》に身寄頼りの無い身の上、娘はあの通りのやくざ阿魔で力に成りやアしねえから、お前方《めえがた》二人が実の娘より優しくして呉れたから、力に思って居
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