」
梅「見捨てかねないじゃアないか、見捨てられて難儀するも罰《ばち》と思うのさ、終《つい》には七兵衞さんの祟《たゝり》でも、私の身も末《すえ》始終碌な事はないと思っては居りますけれどもね」
又「愚痴をいうな、一寸《ちょっと》酔うた紛れに云うたのだ…大きな声をするなよ」
梅「お前さんも高岡の大工町で永禪和尚という一箇寺の住職の身の上で有りながら、亭主のある私に無理な事を云うから、否《いや》とも云えない義理詰に、お前さんと斯《こ》ういう訳に成ったのが私の因果さ、それで七兵衞さんを薪割で殺して」
又「これ馬鹿、大きな声をするな」
梅「云いたくもないけれどもさ、先刻《さっき》云う事を聞けば、比丘尼を打捨《うっちゃ》ってしもうても、お前がうんと云う事を聴けば、おれは此の家《うち》へ這入って、寺男同様な働きをして牛《うし》馬《うま》を牽《ひ》いて百姓にもなろうと云ったが、能《よ》くそんな事が云われた義理だと思って居るよう」
四十
又「それは悪いよ、悪いが大きな声をして聞えると悪いやアな」
梅「いったって宜《い》いよ」
又「馬鹿いうなよ」
梅「言ったって宜《よ》うございます」
又「宜《よ》いたって、此の事が世間に知れちゃアお互に」
梅「お互だって当りまえで、馬鹿々々しいね、本当に能《よ》くあんなことが云われたと思うのだよ、私は本当に高岡を出て、お前に連れられて飛騨の高山|越《ごえ》に」
又「そんな事を云うな、己が悪いよ」
梅「唯《たゞ》悪いと云えば宜《い》ゝかと思って、お前は見捨る了簡になったね」
又「あいた/\/\痛い、捻《ねじ》り上げて痛いわ、何《なん》じゃア」
梅「痛いてえ余《あん》まりで」
又「また殴付《はりつ》けやアがる、これ己が悪いから宥《ゆる》せと云うに、おれが酔うたのだ、はっと云う機《はず》みじゃア」
梅「わたしはもう厭だ、此処《こゝ》に居るのは厭だよ、立つよ」
又「おれも立つよ、おれが悪いから宥せ」
と悋気《りんき》でいうが、世間へ漏れては成りませんから、又市は種々《いろ/\》に宥《なだ》めて、その晩は共に臥《ふせ》りましたことで、先《ま》ず機嫌も直りましたが、翌朝《よくあさ》になり、又市は此処に長く居ては都合が悪いと心得、正午《ひる》時分までは何事もなくって居りましたが、昼飯を食ってしまって急に出立と成りましたから、おやまも悦び、いやな奴
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