又「お前は嘸《さぞ》怖かったで有ろうのう、斯様《かよう》な奴を助けて置くと村方を騒がして何《ど》の様《よう》なる事を為《す》るかも知れぬから、土地の助けに殺したのだ」
やま「有難うございます、命の親でございます」
と手を合せたが、おやまは後《あと》へ下《さが》る、是は又市が刃物を持って居りますから気味が悪いから後へ下る。
又「何も心配は無いから」
と血《のり》を拭《ぬぐ》って鞘《さや》に納め、額の疵へ頭陀の中より膏薬《こうやく》を出して貼付け、後鉢巻《うしろはちまき》をして、
又「さア是から家《うち》まで送ろう」
とおやまの手を取って白島村へ帰ろうとする途中、山之助が帰って伯父に知らせたから、村方の百姓二十人|許《ばか》りおやまの行方を捜しに来る者に途中で出逢い、これから家まで送り届けると云う。是が縁に成って惠梅と水司又市の二人がおやま山之助の家へ来て永く足を留める。これが又一つ仇討《あだうち》に成りまする端緒《いとぐち》でございます。
三十七
おやまの危《あやう》い処《ところ》を助けて、水司又市と惠梅比丘尼は彼《か》のおやまの家《うち》まで送って参る途中で出会いました者は、弟山之助に村方の者でございます。
山「姉は何処《どこ》へ担がれて参ったかと、伯父多右衞門と大きに心配して尋ねに参る処で、貴方が助けて下すったか有難う存じます」
皆々も大悦びでございます。
又「実は斯《こ》う云う訳で、図《はか》らずも通り掛ってお助け申したが実に危《あぶな》い事であった、併《しか》しお怪我もなくて幸いの事で有りましたが、就《つい》ては私《わし》も止むを得ず二人まで殺したからは其の届を出さなければ成るまいが」
多「はい/\届けましても御心配はございません、重々悪い事が有る奴でございますから」
と是から名主へ届けました処が、素《もと》より悪人という事は村方で大概ほしの付いて居ります旅魚屋の傳次なり、おやまを辱《はず》かしめようとした廉《かど》があり、直《すぐ》に桑名川村へ調べに参ると、典藏は家を畳み、急に逐電致しました故、此の事は山家ではあるし、事なく済みましたが、此方《こっち》は急ぐ旅でないから疵《きず》の癒《なお》る間逗留して下さいと云われ、おやま山之助二人暮しの田舎|住居《ずまい》、又市は幸いにして膏薬を貼って此の家《いえ》に逗留して居る間は、惠
前へ
次へ
全152ページ中84ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング