う》すればお前得心ずくでなく疵《きず》を付けられて、他《ほか》へ縁付く事も出来ねえ、それよりはうんと云って得心さえすれば弟御《おとうとご》も仕合《しあわせ》、旦那も斯《こ》んな挙動《まね》を為たくはねえが、お前があゝ云う気性だから仕方がねえ、よう後生だ、ようそれで連れて来たんだ、私が困るから諾《うん》と云って、よう後生だから諾と云って呉んねえ」
やま「さア殺しておしまい、何うも恐しい悪党だ、徒党をして山へ連れて来て慰さもうとする気か、舌を噛んでも人に肌身を汚《けが》されるものか、さア殺してしまえ」
傳「それじゃア仕様がねえ、おいそんな事を……お前《めえ》が否だと云えば手足を押えても□□ぜ」
やま「慰めば舌を喰切って」
典「なに」
傳「旦那腹を立ってはいけねえ、おい姉《ねえ》さん、お前《めえ》否だと云えば仕方がない」
と無理遣《むりやり》に手を取りますると、
やま「何を、放せえ」
と手に喰付きますから、
傳「いけねえ、此のあまっちょ、おい庄吉さん□□□□□□」
と□□□押転《おしこか》し、庄吉は足を押える。
やま「ひー殺してしまえ、殺せえ」
と云う声は谺《こだま》に響きます、後《うしろ》の三峰堂《みみねどう》の中に雨止《あまやみ》をしていた行脚《あんぎゃ》の旅僧《たびそう》、今一人は供と見えて菅《すげ》の深い三度笠《さんどうがさ》に廻し合羽で、柄前《つかまえ》へ皮を巻いて、鉄拵《てつごしら》えの胴金《どうがね》に手を掛け、千草木綿《ちくさもめん》の股引に甲掛草鞋穿《こうがけわらじばき》で旅馴れた姿、明荷《あけに》を脇に置き、一人は鼠の頭陀《ずだ》を頸《くび》に掛け、白い脚半《きゃはん》に甲掛草鞋。
男「あゝ気の毒な、助けて遣《や》らん」
と飛出しましたのは前《ぜん》申上げました水司又市の永禪和尚、彼《か》の川口の薬師堂に寺男になって居ると、尼様に寺男が御経を教えて居る、あれは寺男が本当の坊主の果で有ろうと段々噂が高くなり、薄気味が悪いから、川口を去って越後から倉下道《くらげみち》を山越をして信濃路へ掛って、葉広山の根方を通り掛ると村雨に逢い、少しの間|雨止《あまやみ》と三峰堂へ這入って居ると、雨も止みましたから、支度をして出ようと思う処へ人殺し、殺してしまえと云う女の鉄切《かなき》り声ゆえ、つか/\と飛出しまして、又市は物をも言わずに、娘の腕を押えて居りまし
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