がら振切って百度の籤《くじ》をぽんと投付けると、柳田典藏の顔へ中《あた》ったから痛《いと》うございます。はっと面《つら》を押えて居るうち戸外《おもて》へ駈出しました。
典「傳次々々」
傳「へえ、何うも彼《あ》の通りで仕様がねえ」
典「だからいけぬと云うに、無理遣りに連れ出して、内々《ない/\》ならば仕様も無いが、斯《こ》ういう茶見世へ参って恥を与えるとは怪《け》しからん事」
傳「お前さん、そう怒っちゃアいけねえ」
典「貴様は最《も》う己《おれ》の家《うち》へ来るな」
傳「そんな事を言ってはいけねえ、旦那腹を立ってはいけません、婆《ばゝあ》がね、娘の跡を追掛《おっか》けたが、居ないから最う仕方がないが、お前さん腹を立っちゃアいけません、そこは処女《きむすめ》で、仮令《たとい》向うが惚れていても、気障《きざ》だよお止しよと振払うのは娘っ子の情で、殊《こと》には二十二まで何だって島田で居る様な変り者《もん》だから、気短かに何う斯うと云うなア、からもう色をした事もないようで、極りが悪いじゃア有りませんか、何でも気長に往《い》かなければいけません、旦那斯うしましょう」
典「もう手前の云う事は聴かぬ、種々《いろ/\》の事を云って籤《さし》を投付けて」
傳「籤《さし》なんぞは何でも無い、此の前張倒されて溝《どぶ》へ落ちた人も有るそうでねえ、斯うなさい、娘を何うかして、そーッと他処《わき》へ連れて行こう」
典「連れて行って何うする」
傳「何うすると云ってまアお聞きなさい、何処《どこ》かへ夜連出して、酷《ひど》い様だが私《わっち》一人ではいけねえ、ぎゃア/\云わねえ様に猿轡《さるぐつわ》でも箝《は》めて、庄吉と二人で葉広山《はびろやま》へ担《かつ》いで行って、芝原《しばはら》の綺麗な人の来《こ》ねえ処で、さて姉さん、是程惚れて居る者を宜く此間《こないだ》は大滝村で恥を掻かしたな、殺して仕舞うと云うのだが、可愛くって殺せねえ、若《も》し云う事を聴かぬ時は武士が立たぬとか男が立たぬとか云って、何でも女房《にょうぼ》に成って呉れ否《いや》てえば仕方がねえから、腕を押えても□□□寝るが何うだ、それよりは得心して知れない様にと云えば命が惜《おし》いから造作アねえ、それから家《うち》へ連れて来て、得心ずくでお前さん□□□寝ちゃア何うです宜うがすか、それで娘の方で屹度《きっと》惚れるねえ、初めて男
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