わせるくらいだから、薬喰《くすりぐい》には宜《え》いわな」
又「左様でげすか、鹿は木実《きのみ》や清らかな草を好んで喰うと申すことで、鹿の肉は魚よりも潔《きよ》いから召上れ、御婦人には尚お薬でございます……おい婆さん何を持って来て、ソレこれへ打込《ぶっこ》みねえ、それその麁朶《そだ》を燻《く》べてな、ぱッ/\と燃《もや》しな……さア召上りまし、此方《こっち》の肉《み》が柔かなのでございますから、さア御比丘様」
梅「有難う存じます、まア本当に斯《こ》う長くお世話に成りますとも思いませんでしたが、余《あんま》り御夫婦のお手当が宜《よ》いから、つい泊る気になりました」
婆「何う致しまして、もうこんな爺《じゞい》婆《ばゞ》アで何もお役には立ちませんから、どうか御退屈でない様にと申しましても、家もない山の中でございますから、外《ほか》に仕方もございません、どうか何時《いつ》までもいらしって下されば仕合せでと、爺も一層蔭でお噂致して居りますよ……爺さんお相手をなさいよ」
又「さアこの御酒を召上りませ、それから鍋は一つしかございませんから取分けて上げましょう」
永「いや皆|此処《こゝ》で一緒の方が宜《え》いから」
又「左様でげすか、いろ/\又|爺《じゞい》婆《ばゞあ》の昔話もございますから、少しはお慰みにもなりましょうと思いまして……婆さん、どうも美《い》い酒だのう、宜かろう何うだえ、えゝこの御酒はあの古河町へ往《い》かなければないので、又|醤油《したじ》が好《よ》いから甘《うま》いねえ、これでね旦那様、江戸の様な旨い味噌で造ったたれを打込《ぶちこ》んで、獣肉屋《もゝんじいや》の様にぐつ/\遣《や》れば旨いが、それだけの事はいきません、どうも是では旨くはないが、これへ蕨《わらび》を入れるもおかしいから止しましょう……へえお盃を戴きます、私《わたくし》も若い時分には随分|大酒《たいしゅ》もいたしましたが、もう年を取っては直《すぐ》に酔いますなア、それでも毎晩|酣鍋《かんなべ》に一杯位ずつは遣《や》らかします」
と差《さ》えつ押《おさ》えつ話をしながら酒宴《さかもり》をして居りましたが、其の内にだん/\と爺さん婆さんも微酔《ほろよい》になりました。
永「何うだい、お前方は何うも山の中にいる人とは違い、また言葉|遣《づか》いも分るから屹度《きっと》苦労人の果《はて》じゃろう、万事に宜
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