はないかえ。乞「へい……能《よ》う御存《ごぞん》じさまでございます、これは貴方《あなた》、遠州所持《ゑんしうしよぢ》でございまして、其後《そののち》大《たい》した偉《えら》い宗匠《そうしやう》さんが用《もち》ひたといふ品《しな》でございます。主「ンー……。乞「これは私《わたくし》の大事《だいじ》な品《しな》でございまして、当時《いま》斯《か》う零落《おちぶ》れまして、値《ね》を高く買《か》はうといふ人がございますけれども、なか/\手離《てばな》しませぬで……。主「どうもマア、乞食《こじき》になつても砂張《すばり》の建水《みづこぼし》をすてないといふところは、真《しん》のお茶道人《ちやじん》でげすな、お流儀《りうぎ》は…乞「へい千家《せんけ》でございます。主「誰方《どなた》の御門人《ごもんじん》で……。乞「はい実《じつ》は……川上宗治《かはかみそうぢ》の弟子《でし》でございます。主「フーン……お姓名《なまへ》は聴《き》いても仰《おつし》やるまいね。乞「へい/\もう姓名《なまへ》を申《まう》すのは、お恥《はづ》かしうて申《まう》せませぬが、斯様《かやう》に御親切《ごしんせつ》に上《うへ》へ上《あ》げて、御飯《ごぜん》まで下《くだ》さる貴方様《あなたさま》のことでございますから、隠《かく》さず申上《まうしあ》げますが、私《わたくし》は芝片門前《しばかたもんぜん》に居《を》りました、神谷幸右衛門《かみやかうゑもん》でございます。主「へえー……何《な》にかえ、貴方《あなた》は神幸《かみかう》といふ立派《りつぱ》な御用達《ごようたし》で大《たい》したお生計《くらし》をなすつたお方《かた》か……えーまアどうも思《おも》ひ掛《が》けないことだねえ、貴方《あなた》の家宅《ところ》の三|畳《でふ》大目《だいめ》の、お数寄屋《すきや》が出来《でき》た時に、お席開《せきびら》きといふので、私《わたくし》もお招《まね》きに預《あづか》つたが、其時《そのとき》は是非《ぜひ》伊豆屋《いづや》さんなんぞと一|緒《しよ》に、参席《あが》る積《つも》りでございましたが、残念《ざんねん》な事には退引《のつぴ》きならぬ要事《よう》があつて、到頭《たうとう》参席《あが》りませぬでしたが……。乞「へい/\貴方《あなた》は誰方様《どなたさま》で……。主「私《わし》アお徒士町《かちまち》に居《を》つた、河内屋金兵
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