衛《かはちやきんべゑ》でげすよ。乞「へえー……河内屋《かはちや》さん……エーまア道理《だうり》こそ、此砂張《このすばり》の建水《こぼし》がお目《め》に留《と》まるといふのは、余程《よほど》お嗜好者《すきしや》とは存《ぞん》じましたが……貴方《あなた》は河内屋《かはちや》さんでございましたか……思《おも》ひ掛《が》けないことで……。主「どうも誠に思ひ掛《が》けないことでお前《まへ》さんに邂逅《あひ》ました、未《ま》だお目《め》には掛《か》からなかつたが、今度《こんど》はお眤近《ちかづき》にならう……まア此時節《このじせつ》が変《かは》つて貴方《あなた》は斯《か》う御零落《ごれいらく》になつて、何《な》んとも云《い》ひやうがない、拙者《てまへ》はマアどうやら斯《か》うやら、斯《か》うやつて居《を》りますが本当《ほんたう》においとしいことだ……。妻「お噂《うはさ》には毎度《まいど》承《うけたま》はつて居《を》りましたよ、立派《りつぱ》なお住宅《すまひ》でお庭《には》は斯《か》う、何《なに》は斯《か》うと、能《よ》くまア、何《な》んでございますよ、名草屋《なくさや》の金《きん》七といふ道具屋《だうぐや》が参《まゐ》りまして始終《しじう》お噂《うはさ》でございますよ。乞「へい然《さ》うでございますか。主「まア/\おいとしいことでございます……時に一寸《ちよつと》お薄茶《うす》を上《あ》げやう鉄瓶点《てつびんだ》てゞ……コレ/\其棗《そのなつめ》で宜《い》い、出《で》て居《ゐ》るんで宜《い》いから持《も》つてお出《い》で……一|服《ぷく》鉄瓶点《てつびんだ》てゞ上《あ》げませう、茶は挽《ひ》きたてだけれども、何《ど》うも湯加減《ゆかげん》が悪いのでうまく出来《でき》ないが、一|服《ぷく》上《あ》げる。乞「どうも誠に有難《ありがた》うございます、私《わたくし》は最《も》う一|生涯《しやうがい》、お薄茶《うす》一|服《ぷく》でも戴《いたゞ》けることでないと、断念《あきら》めて居《を》りましたところが(泣声《なきごゑ》)鉄瓶点《てつびんだ》てゞ一|服《ぷく》下《くだ》さるとは……往昔《むかし》の友誼《よしみ》をお忘れなく御親切《ごしんせつ》に……私《わたくし》は最《も》う死んでも宜《よ》うございます。主「然《さ》う仰《おつし》やられては実《じつ》に胸が一|杯《ぱい》になります……お菓
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