、最《も》う汝《きさま》生涯《しやうがい》出来《でき》ないぞ。子「あい……旦那様《だんなさま》お有難《ありがた》うございます。と可愛《かあい》らしい手を突《つ》いて、頸《くび》を横にして挨拶《あいさつ》をします挙動《やうす》が手の突《つ》きやうから、辞儀《じぎ》の仕方《しかた》がなか/\叮嚀《ていねい》でげす。主「ンー……お前様《まへさん》も何《な》んだらうね……。乞「へい/\。主「以前《いぜん》は然《しか》るべきお方《かた》の成《な》れの果《はて》で、まア此時節《このじせつ》が斯《か》う変《かは》つたから、当時《いま》然《さ》ういふ御身分《ごみぶん》に零落《おちぶ》れなさつたのだらうが、何《ど》うもお気の毒なことで…。乞「はい旦那様《だんなさま》私《わたくし》も、賓客《きやく》を招《よ》ぶ時《とき》には八百膳《やほぜん》の仕出《しだし》を取寄《とりよ》せまして、今日《けふ》の向付肴《むかうづけ》が甘酢《あまず》の加減《かげん》が甘味過《あます》ぎたとか、汁《しる》が濃過《こす》ぎたとか、溜漬《たまりづけ》が辛過《からす》ぎたとか小言《こごと》を云《い》つた身分《みぶん》でございますが、当時《いま》罰《ばち》が中《あた》つて斯《か》ういふ身分《みぶん》に零落《おちぶ》れ、俄盲目《にはかめくら》になりました、可愛想《かあいさう》なのは此子供《このこぞう》でございます、何《な》んにも存《ぞん》じませぬで、親《おや》の因果《いんぐわ》が子に※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]《めぐ》りまして、此雪《このゆき》の降《ふ》る中《なか》を跣足《はだし》で歩きまして、私《わたくし》が負傷《けが》を致《いた》しますとお父《とつ》さん痛《いた》うないかと云《い》つて労《いたは》つて呉《く》れます、私《わたくし》の心得違《こゝろえちが》ひから斯様《かやう》に零落《れいらく》を致《いた》し、目《め》まで潰《つぶ》れまして、ソノ何《な》んにも知らぬ頑是《ぐわんぜ》のない忰《せがれ》に、斯《か》う難義《なんぎ》をさせますかと思ひますれば、誠にお恥《はづ》かしいことでございます。主「それは/\お気の毒なことだ、貴方《あなた》は以前《もと》はお旗下《はたもと》かね。乞「いえ/\。主「ンー……南蛮砂張《なんばんすばり》の建水《みづこぼし》は、是品《これ》は遠州《ゑんしう》の箱書《はこがき》で
前へ
次へ
全12ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング