の家内《かない》は、時々《とき/″\》私《わたし》が貴方《あなた》の処《ところ》へお療治《れうぢ》に参《まゐ》つて居《ゐ》ると迎《むか》ひに来《き》た事もありますが、私《わたし》の女房《にようばう》は今のやうな好《い》い女《をんな》ですか。近「ウフヽヽ、アハヽヽ梅喜《ばいき》さん腹《はら》ア立《た》つちやアいけないよ、お前《まへ》ん処《とこ》のお内儀《かみ》さんは失敬《しつけい》だが余《あま》り器量《きりやう》が好《よ》くないよ。梅「へえゝ何《ど》んな工合《ぐあひ》ですな。近「フヽヽ何《ど》んな工合《ぐあひ》だツて……あ彼処《あそこ》へ味噌漉《みそこし》を提《さ》げて往《い》く何処《どこ》かの雇《やと》ひ女《をんな》が有《あ》るね、彼《あれ》よりは最《も》う少し色が黒《くろ》くツて、ずんぐりしてえて好《よ》くないよ。梅「彼《あれ》より悪《わる》うございますと、それは恐入《おそれい》りましたな、私《わたくし》は美人だと思つてましたが、器量《きりやう》の善悪《よしあし》は撫《なで》たツて解《わか》りません……あ……危《あぶね》えなア、何《な》んですなア……是《これ》は……。近「人力車《じんりき》だ。梅「へえゝ眼《め》の見えない中《うち》は却《かへ》つて驚《おどろ》きませんでした、何《ど》うでも勝手にしねえと云《い》ふ気《き》が有《あ》りましたから、眼《め》が明《あ》いたら何《なん》だか怖《こは》くツて些《ちつ》とも歩けません。近「それぢやア車《くるま》に乗《の》せよう、然《さ》うして浅草《あさくさ》の観音《くわんおん》さまへ連《つ》れて往《ゆか》う。と是《これ》から合乗《あひの》りで、蔵前通《くらまへどほ》りから雷神門《かみなりもん》の際《きは》で車《くるま》を下《お》り、近「梅喜《ばいき》さん、是《これ》が仲見世《なかみせ》だよ。梅「へゝえ何処《どこ》ウ……。近「なアにさ、ここが観音《くわんおん》の仲見世《なかみせ》だ。梅「何《なに》かゞございませう玩具店《おもちやみせ》が。近「べた玩具店《おもちやみせ》だ。梅「どれが……。近「あの種々《いろん》なものを玩具《おもちや》と云《い》ふのだ。梅「へえゝ……種々《いろん》な物《もの》が有《あ》りますな、此間《このあひだ》ね山田《やまだ》さんの坊《ぼつ》ちやんが持《も》つていらしつたのを私《わたし》が握《にぎ》つたら、玩具《おもちや》だと仰《おつ》しやいましたが、成程《なるほど》さま/″\の物《もの》が有《あ》りますよ、此方《こつち》も玩具《おもちや》……彼方《あつち》も玩具《おもちや》、其《そ》の隣《となり》も玩具《おもちや》、あゝ玩具《おもちや》を引張《ひつぱ》つて伸《のば》して居《を》ります。近「フヽヽあれは飴《あめ》やだよ。梅「へえゝ成程《なるほど》、此方《こつち》は。近「人形屋《にんぎやうや》。梅「向《むか》うのは。近「料理茶屋萬梅《れうりぢややまんばい》といふのだ。梅「あら/\。近「見《みつ》ともねえなア、大きな声《こゑ》であらあらと云《い》ひなさんな。梅「あれは。近「絵草紙《ゑざうし》だよ。梅「へえゝ綺麗《きれい》なもんですな、撫《なで》て見ちやア解《わか》りませんが、此間《このあひだ》池田《いけだ》さんのお嬢《ぢやう》さまが、是《これ》は絵《ゑ》だと仰《おつ》しやいましたが解《わか》りませんでした。梅「おゝ突当《つきあた》りやがつて、気《き》を附《つ》けろい、盲人《めくら》に突当《つきあた》る奴《やつ》が有《あ》るかい。近「眼《め》が明《あ》いて居《ゐ》るぢやアないか。梅「ヘヽヽ今日《けふ》明《あ》きましたんで、不断《ふだん》云《い》ひ慣《つ》けて居《ゐ》るもんですから。と云《い》ひながら両手《りやうて》を合《あは》せ、梅「南無大慈大悲《なむだいじだいひ》の観世音菩薩《くわんぜおんぼさつ》……いやア巨《おほ》きなもんですな、人が盲目《めくら》だと思つて欺《だま》すんです、浅草《あさくさ》の観音《くわんおん》さまは一|寸《すん》八|分《ぶ》だつて、虚言《うそ》ばツかり、巨《おほ》きなもんですな。近「そりやア仁王門《にわうもん》だ、是《これ》から観音《くわんおん》さまのお堂《だう》だ。梅「道理《だうり》で巨《おほ》きいと思ひました……あゝ……危《あぶな》い。と驚《おどろ》いて飛下《とびさが》る。近「フヽヽ何《なん》だい、見《みつ》ともない、鳩《はと》がゐるんだ。梅「へえゝ豆をやるのは是《これ》ですか……鳩《はと》がお辞儀《じぎ》をして居《ゐ》ますよ。近「なに豆を喰《く》つてゐるんだ。梅「異《ちが》つたのが居《を》りますね、頭《あたま》の赤《あか》い。近「あれは鶏鳥《にはとり》だ……ま此方《こつち》へお出《い》で、こゝがお堂《だう》だ。梅「へえゝ成程《なるほど》、十八|間《けん
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