/\、下駄を横に顛覆《ひっくりけえ》すと滅法界《めっぽうけえ》痛《いた》えもんだ、これだこれじゃア穿《は》く事が出来ねえ」
と独語《ひとりごと》を云いながら、腰を掛《かけ》るものがないから、河岸《かし》に並んで居ります、蔵の差《さし》かけの下で、横鼻緒をたって居りますと、ぴゅーと吹掛けて来る雪風《ゆきかぜ》に、肌が裂《き》れるばかり、慄《ふる》いあがる折《おり》から、橋の袂《たもと》でぱた/\/\と団扇《うちわ》の音が致しまして、皺枯《しわが》れ声で
商「鍋焼饂飩《なべやきうどん》」
と呼んで居ります所へ、ぽかり/\と駒下駄《こまげた》穿《は》いて来る者は、立派な男で装《なり》は臘虎《らっこ》の耳つきの帽子を冠《かぶ》り、白縮緬《しろちりめん》の襟巻《えりまき》を致し、藍微塵《あいみじん》の南部の小袖《こそで》に、黒羅紗《くろらしゃ》の羽織を着て、ぱっち尻からげ、表附きの駒下駄穿き、どうも鍋焼饂飩などを喰いそうな装《なり》では有りませんが、ずっと饂飩屋の傍《そば》へ寄り。
男「饂飩屋さん一杯おくれ」
饂「へい只今上げます」
と云いながら顔を見合わせ、
饂「え是は」
男「大《おお》
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