は不思議な訳だが、其処《そこ》へ泊って買出しをすると云った、春見屋という宿屋が怪しいと思いますが、過去《すぎさ》った事だから仕方がない、早く私《わっち》が知ったらば、調べ方も有ったろうに、えゝ仕様がねえ、何しろ私は外《ほか》に用がありますから、又|近《ちか》え内にお尋ね申しやす、時節を待っておいでなさい」
母「茶はないがお湯でも上げて、何《なん》ぞ菓子でも上げてえもんだが、貧乏世帯《びんぼうじょたい》だから仕方がない、どうか又四五日内にお出《い》でなすって下さい」
清「又|良《い》いお医者様が有ったらばお世話致します、お構いなすって下さいますな」
と云いながら立上るから、誠に有難うございますと娘と忰は見送ります。
清「左様なら」
と清次は表へ出て、誠にお気の毒だと、真実者ゆえ心配しながら、鉄砲洲新湊町へ帰ろうと思いますと、ちらり/\雪の花が降り出しまして、往来はぱったりと途絶え、夜《よ》も余程更けて居ります。川口町から只今の高橋の袂《たもと》へかゝりますと、穿《は》いて居りました下駄《げた》を、がくりと踏みかえす途端に横鼻緒《よこばなお》が緩《ゆる》みました。
清「あゝ痛《いて》え
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