云うことを聞いて胸が一杯になった、三円の金に困って、お父《とっ》さんの遺物《かたみ》の守りを婆さんに取られ、旦那取《だんなどり》をすると云わなければお母《っか》さんが歎《なげ》くと云って、正直に二円返すから、あとの三円は貸して呉れろと、そう云われては貸さずには居《い》られない、色気も恋も醒《さ》めてしまった、余《あんま》り実地過《じっちすぎ》るが、それじゃア婆《ばゞあ》が最《も》う五円くすねたな、太《ふて》え奴だなア、それはいゝが、その大事な観音様と云うのはどんな観音様だえ、お見せ」
ま「はい、親父《おやじ》の繁昌《はんじょう》の時分に彫《ほ》らせたものでございます」
 と云いながら差出す。
清「結構なお厨子だ、艶消《つやけ》しで鍍金金物《めっきがなもの》の大《たい》したものだ」
 と開《ひら》いて見れば、金無垢《きんむく》の観音の立像《りつぞう》でございます。裏を返して見れば、天民《てんみん》謹《つゝし》んで刻《こく》すとあり、厨子の裏に朱漆《しゅうるし》にて清水助右衞門と記《しる》して有りますを見て、清次は小首を傾け。
清「此の観音さまは見た事があるが、慥《たし》か持主《もちぬし》
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