まし」
 と云って見送る。重二郎も振返り/\出て往《ゆ》きました。其の跡へ入って来たのは怪しい姿《なり》で、猫の腸《ひゃくひろ》のような三尺《さんじゃく》を締め、紋羽《もんぱ》の頭巾《ずきん》を被《かぶ》ったまゝ、
男「春見君は此方《こちら》かえ/\」
利「はい、何方《どなた》ですえ」
男「井生森又作という者、七《しち》ヶ年《ねん》前《ぜん》に他県へ参って身を隠して居たが、今度東京へ出て参ったから、春見君に御面会いたしたいと心得て参ったのだ、取次いでおくんなせえ」
利「生憎《あいにく》主人は留守でございますから、どうか明日《みょうにち》お出《い》でを願いとうございます」
又「いや貧乏暇なしで、明日《みょうにち》明後日《みょうごにち》という訳にはいかないから、お気の毒だがお留守なら御帰宅までお待ち申そう」
利「これは不都合な申分《もうしぶん》です、知らん方を家《うち》へ上げる訳にはゆきません、主人に聞かんうちは上げられません」
又「何《なん》だ僕を怪しいものと見て、主人に聞かんうちは上げられないと云うのか、これ僕が春見のところへまいって、一年や半年寝ていて食って居ても差支《さしつか》えな
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