おいさ」は底本では「おさい」と誤記]が紙へ三円包んで持ってまいり、
い「もし重二郎さん、お腹も立ちましょうが、お父《とっ》さんは彼《あ》の通りの強情者でございますから、どうかお腹をお立ちなさらないで下さいまし、これは私《わたくし》の心ばかりでございますが、お母《っか》さんに何か暖《あった》かい物でも買って上げて下さい」
重「いゝえ戴きません、人は恵む者がある内は、奮発の附かないものだと仰《おっ》しゃった事は死んでも忘れません」
い「あれさ、そんな事を云わないでこれは私《わたし》の心ばかりでございますから、どうかお取り下さい」
 と無理に手へ掴《つか》ませてくれても、重二郎は貰うまいと思ったが、これを貰わなければ明日《あした》からお母《ふくろ》に食べさせるのに困るから、泣々《なく/\》貰いまして、あゝ親父《おやじ》と違って、此の娘は慈悲のある者だと思って、おいさの顔を見ると、おいさも涙ぐんで重二郎を見る目に寄せる秋の波、春の色も面《おもて》に出《い》でゝ、真《しん》に優しい男振りだと思うも、末に結ばれる縁でございますか。
い「どうかお母《っか》さんに宜《よろ》しく、お身体をお大切になさい
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