世の中に、腹の減るまでうか/\として居るとは愚を極《きわ》めた事じゃねえか、それに商業|繁多《はんた》でお前と長く話をしている事は出来ない、帰って下さい」
と云い捨て、桑の煙草盆を持って立上り、隔《へだて》の襖《ふすま》を開けて素気《そっけ》なく出て往《ゆ》きます春見の姿を見送って、重二郎は思わず声を出して、ワッとばかりに泣き倒れまして、
重「はい、帰ります/\、貴方《あんた》も元は御重役様であった時分には、私《わし》が親父《おやじ》は度々《たび/\》お引立《ひきたて》になったから、貴方を私が家《うち》へ呼んで御馳走をしたり、立派な進物も遣《つか》った事がありますから、少しばかりの事を恵んでも、此の大《でけ》え身代《しんでい》に障《さわ》る事もありますまい、人の難儀を救わねえのが開化の習《なら》いでございますか、私は旧弊の田舎者で存じませぬ、もう再び此の家《うち》へはまいりません只今貴方の仰《おっ》しゃった事は、仮令《たとえ》死んでも忘れません、左様なら」
と泣々《なく/\》ずっと起《た》って来ますと、先刻《せんこく》から此の様子を聞いていまして、気の毒になったか、娘のおいさ[#「
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