《ひとえもの》の染《そめ》っ返しを着て、前歯の滅《へ》りました下駄を穿《は》き、腰に穢《きたな》い手拭《てぬぐい》を下げて、頭髪《あたま》は蓬々《ぼう/\》として、自分ながら呆《あき》れるような姿《なり》ゆえ、恐る/\玄関へ手を突いて、
重「お頼み申します/\」
男「どーれ」
と利助《りすけ》という若い者が出てまいりまして、
利「出ないよ」
重「いえ乞食《こじき》ではございません」
利「これは失敬、何処《どこ》からお出《い》でになりました」
重「私《わし》ア少し旦那様にお目にかゝって御無心申したい事がありまして参りました」
利「何処からお出でゞございますか」
重「はい、私《わし》ア前橋の竪町の者でございまして、只今は御近辺に参って居りますが、清水助右衞門の忰《せがれ》が参ったと何卒《どうぞ》お取次を願います」
利「誠にお気の毒でございますが、此の節は無心に来る者が多いから、主人も困って、何方《どなた》がお出でになってもお逢いにはなりません、種々《いろ/\》な名を附けてお出でになります、碌々《ろく/\》知らんものでも馴々《なれ/\》しく私は書家でございます、拙筆《せっぴつ》を御覧に入れ
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