から、三千円の証書の事には頓《とん》と心付きませんでしたが、後《あと》で宜《よ》く考えて見ますと、助右衞門が彼《あ》の時我が前に証書を出して、引換えに金を渡せと云って顔色を変えたが彼《か》の証書の、後《あと》にないところを見れば、他《ほか》に誰《たれ》も持って行《ゆ》く者はないが、井生森又作はあア云う狡猾《こうかつ》な奴だから、ひょっと奪《と》ったかも知れん、それとも助右衞門の死骸の中へでも入っていったか、何しろ又作が帰らなければ分らぬと思って居りましたが、三ヶ年の間又作の行方《ゆくえ》が知れませんから、春見は心配で寝ても寝付かれませんから、悪い事は致さぬものでございますが、凡夫《ぼんぷ》盛んに神|祟《たゝ》りなしで、悪運強く、する事なす事儲かるばかりで、金貸《かねかし》をする、質屋をする、富豪《ものもち》と云われるように成って、霊岸島川口町《れいがんじまかわぐちちょう》へ転居して、はや四ヶ年の間に前の河岸《かし》にずうっと貸蔵《かしぐら》を七つも建て、奥蔵《おくぐら》が三戸前《みとまえ》あって、角見世《かどみせ》で六間間口の土蔵造《どぞうづくり》、横町《よこちょう》に十四五間の高塀《
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