《ゆえ》そうはいかんと云って荷物を持って取急いでお帰りになったが、それ切り帰られないかえ」
文「それ清水の旦那が荷をお前さんへ預け、床へ来ると私《わっち》がいて、旦那どうして此方《こちら》へ出ていらしったと云うと、商売替《しょうべいげえ》をする積りで、滅法界《めっぽうけい》金を持って来て、迂濶《うっか》り春見屋へ預けたと云うから、それはとんだ、むゝなに、一番|宜《よ》い処へお預けなすったという訳で、へい」
丈「今もいう通り直《す》ぐに横浜へ往《ゆ》くと云って、お帰りなすったよ」
文「ふん、へい、十月二日に、旦那が此方《こっち》へ……」
丈「幾度云っても其の通り来たことは来たが、直《す》ぐにお帰りになったのだよ」
重「仕様がありませんなア」
文「だって旦那え、まアどうも、…へい左様なら」
 と取附く島もございませんから、そとへ出て重二郎は文吉に別れ、親父《おやじ》が横浜へ往ったとの事ゆえ、横浜を残らず捜しましたが居りませんので、また東京へ帰り、浅草、本郷と捜しましたが知れません。仕方がないから重二郎は前橋へ立帰りました。お話跡へ戻りまして、井生森又作は清水助右衞門の死骸を猿田船《やえんだ
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