威《おど》した宿屋、実に危《あぶな》い身代で、お客がなければ借財方《しゃくざいかた》からは責められまするし、月給を遣《や》らぬから奉公人は暇《いとま》を取って出ます、終《つい》にはお客をすることも出来ません、適《たま》にお客があれば機繰《からくり》の身上《しんしょう》ゆえ、客から預かる荷物を質入《しちいれ》にしたり、借財方に持って行《ゆ》かれますような事でございますから、客がぱったり来ません。丁度十月二日のことでございます。歳はゆかぬが十二になるおいさという娘が、親父《おやじ》の身代《しんだい》を案じましてくよ/\と病気になりましたが、医者を呼びたいと思いましても、診察料も薬礼《やくれい》も有りませんから、良《い》い医者は来て呉れません。幸い貯えて有りました烏犀角《うさいかく》を春見が頻《しきり》に定木《じょうぎ》の上で削って居ります所へ、夕景に這入《はい》って来ました男は、矢張《やはり》前橋侯の藩で極《ごく》下役でございます、井生森又作という三十五歳に相成《あいな》りましてもいまだ身上《みのうえ》が定《さだま》らず、怪しい形《なり》で柳川紬《やながわつむぎ》の袷《あわせ》一枚で下には
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