えば仔細は無かったのだが、此の三千円の金が有ったなら、元の如く身代も直り、家も立往《たちゆ》くだろう、又娘にも難儀を掛けまいと、むら/\と起りました悪心から致して、有合《ありあ》う定木《じょうぎ》をもって清水助右衞門を打殺《うちころ》す。側にいた井生森又作は、そのどさくさ紛《まぎ》れに右三千円の預り証書を窃取《ぬすみと》るというお話は、前日お聞きになりました所でござりますが、此の騒ぎを三畳の小座敷で聞いて居りましたのは、当年十二歳に相成るおいさと云う孝行な娘でございますから、お父様《とっさま》は情《なさけ》ない事をなさる、と発明な性質ゆえ、袖を噛んで泣き倒れて居ります。春見は人が来てはならんと、助右衞門の死骸を蔵へ運び、葛籠《つゞら》の中へ入れ、血《のり》の漏《も》らんように薦《こも》で巻き、すっぱり旅荷のように拵《こしら》え、木札《きふだ》を附け、宜《い》い加減の名前を書き、井生森に向い。
丈「金子を三百円やるから、どうか此の死骸を片附ける工風《くふう》はあるまいか」
又「おっと心得た、僕の縁類《えんるい》が佐野《さの》にあるから、佐野へ持って往って、山の中の谷川へ棄てるか、又は無住
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