申す手前一人の娘が、如何《いか》なる悪縁か重二郎殿を思い初《そ》めましたを、重二郎殿が親の許さぬ淫奔《いたずら》は出来ぬと仰《おっ》しゃったから、一|室《ま》にのみ引籠《ひきこも》り、只くよ/\と思い焦《こが》れて遂《つい》に重き病気になり、病臥《やみふ》して居ります、斯《かゝ》る次第ゆえ、此の始末を娘が聞知《きゝし》る時は、憂《うれい》に迫《せま》り病《やまい》重《おも》って相果《あいは》てるか、願《ねがい》の成らぬに力を落し、自害をいたすも知れざるゆえ、何卒《どうぞ》此の事ばかりは娘へ内聞《ないぶん》にして下さらば、手前の此の身代は重二郎殿へ残らず差上げます、これ此の身代は助右衞門殿の三千円の金から成立《なりた》ったものなれば、取りも直さず、皆助右衞門殿が遺《のこ》された財産で、重二郎殿が所有たるべきものでござる、諸方へ貸付けてある金子の書類は此の箪笥《たんす》の引出《ひきだし》にあって、娘いさが残らず心得て居ります、敵《かたき》同志の此の家《うち》の跡を続《つ》ぐのはお厭《いや》であろうが重二郎殿、我《わが》なき後《のち》は他《た》に便《たよ》りなき娘のおいさを何とぞ不憫《ふびん
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