身を大事に重二郎さん、あなた私を見捨てると聴きませんよ」
と慄声《ふるえごえ》で申しましたが、嬉涙《うれしなみだ》に声|塞《ふさが》り後《あと》は物をも云われず、さめ/″\とし襦袢《じゅばん》の袖で涙を拭いて居ります。想えば思わるゝで、重二郎も心嬉しく、せわ/\しながら。
重「私《わし》はもう帰《けえ》りますが、今の事を楽《たのし》みに時節の来るまで稼《かせ》ぎやすよ」
い「御身代の直るように私も神信心《かみしんじん》をして居ります、どうぞお母様《っかさま》にお目にはかゝりませんが、お大事になさるように宜《よ》く仰《おっ》しゃってくださいまし」
重「此の包《つゝみ》は折角の思召《おぼしめし》でございますから貰って往《ゆ》きます」
と云っている処へお兼が帰ってまいり、
兼「もう明けても宜《よろ》しゅうございますか、お早ければ最《も》う一遍往ってまいります」
と云いながら隔《へだて》の襖《ふすま》を明け、
兼「なんだかお堅い事ねえ、本当に嬢様は泣虫《なきむし》ですよ、お気が小さくっていらっしゃいますから、あなた不憫《ふびん》と思って時々逢って上げて下さいまし、あの最《も》うお帰りです
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