めたが宜《よ》かろうとか、寒いから質に入れてある布子《ぬのこ》を出して来たら宜かろうと、母子《おやこ》三人が旱魃《かんばつ》に雨を得たような、心持《こゝろもち》になり、久し振で汚れない布子を被《き》て、重二郎が茅場町の薬師へお礼参りにまいりました。丁度十二月の三日の夕方でございます。薬師様のお堂へまいり、柏手《かしわで》を打って頻《しき》りに母の眼病平癒を祈り、帰ろうといたしますと、地内《じない》に宮松《みやまつ》という茶屋があります。是《こ》れは棒の時々飛込むような、怪しい茶屋ではありません。其処《そこ》から出て来た女は年頃三十八九で色浅黒く、小肥《こぶと》りに肥《ふと》り、小ざっぱりとした装《なり》をいたし人品《じんぴん》のいゝ女で、ずか/\と重二郎の傍《そば》へ来て、
女「もし貴方《あなた》はあのなんでございますか、あの清水重二郎様と仰《おっ》しゃいますか」
重「はい私《わし》は清水重二郎でございますが、あなたは何処《どこ》のお方ですか」
女「あのお手間は取らせませんから、ちょっと此の二階までいらっしって下さいまし」
重「はい、なんでがんすか、私《わし》ア急ぎやすが、何処《どこ》
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