根屋の清次と云って、お母さんは御存じでございやすが、此様《こん》な三尺に広袖《ひろそで》ではきまりが悪いから、明日《あした》でも参ってお目にかゝりましょう」
ま「いゝえ、母は目が見えませんから知れません、お馴染《なじみ》ならば母に逢って、どうぞ力になって下さいまし」
清「そんなら一緒に参りましょう、とんでもねえ話だが、此処《こゝ》の婆《ばゞア》がお前さんに金を拾円上げましたかえ」
ま「いゝえ、五円戴きました、三円お金の借りを返しまして弐円残って居りますから、あなたへ弐円お返し申したのでございます」
清「太《ふて》え婆だ十円取って五円くすねたのだ仕様のねえ狡猾婆《こうかつばゞあ》だ、そんなら御一緒にお前さんの家《うち》へ行《ゆ》きましょう」
 とこれから二人連立って外へ出ると、一軒置いて隣は清水重二郎の家《うち》でございます。
ま「お母《っか》さん只今帰りました」
母「何処《どこ》へ往ったのだえ」
ま「はい桂庵《けいあん》のお虎さんの所へ参りました」
 と云いながら清次に向い。
ま「あなた、此方《こちら》へお入り遊ばしまし」
清「えい御免なせえ」
 と上《あが》って見ると、九尺二間《くしゃくにけん》の棟割長屋《むねわりながや》ゆえ、戸棚もなく、傍《かたえ》の方へ襤褸夜具《ぼろやぐ》を積み上げ、此方《こちら》に建ってあります二枚折《にまいおり》の屏風《びょうぶ》は、破れて取れた蝶番《ちょうつがい》の所を紙捻《かんぜより》で結びてありますから、前《まい》へも後《うしろ》へも廻る重宝《ちょうほう》な屏風で、反古張《ほごばり》の行灯《あんどん》の傍《そば》に火鉢《ひばち》を置き、土の五徳《ごとく》に蓋《ふた》の後家《ごけ》になって撮《つまみ》の取れている土瓶《どびん》をかけ、番茶だか湯だかぐら/\煮立って居りまして、重二郎というおとなしい弟《おとゝ》が母の看病をして居ります。
清「えゝ、お母《ふくろ》さん/\」
母「はい、何方《どなた》でがんすか」
ま「あの此の方はお虎さんの家《うち》に来ていらっしゃった家根屋の棟梁さんで、お母《っか》さんを知っていらっしゃいまして、何うしてこんな姿におなりだお気の毒な事だと云って、見舞に来て下すった、前橋にいた時分のお馴染《なじみ》だという事でございます」
母「はい、私《わし》は眼がわるくなりやんして、お顔を見ることも出来ませんが、何方《ど
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