は上州前橋の清水という御用達《ごようたし》で、助右衞門様のであったが、何うしてこれがお前の手に入《はい》ったえ」
ま「はい、私《わたくし》は其の清水助右衞門の娘でございます」
と云われ清次は大《おお》いに驚きましたが、此の者は何者でございますか、次に委《くわ》しく申上げましょう。
五
家根屋《やねや》の棟梁清次は、おまきが清水助右衞門の娘だと申しましたに恟《びっく》りいたしまして、
清「えゝ、清水のお嬢様《じょうさん》ですか、これはまアどうも面目次第もねえ」
とおど/\しながら、
清「まア、お嬢様《じょうさま》、おまえさんはお少《ちい》さい時分でありましたから、顔も忘れてしまいましたが、今年で丁度十四年|前《あと》、私《わっち》が前橋にくすぶっていた時、清水の旦那には一通《ひととお》りならねえ御恩を戴いた事がありましたが、あれだけの御身代のお娘子《むすめご》が、何《ど》うして裏長家《うらながや》へ入っていらっしゃいます、その眼の悪いのはお内儀《かみさん》でございやすか」
ま「はい/\七年|以来《このかた》微禄《びろく》しまして、此様《こん》な裏長屋に入りまして、身上《しんしょう》の事や何かに心配して居りますのも、七年|前《まえ》に父が東京へ買出しに出ましたぎり、今だに帰りませず、音も沙汰もございません故、母は案じて泣いて計《ばか》り居りましたのが、眼病の原《もと》で、昨年から段々重くなり、此の頃はばったり見えなくなりましたから、弟《おとゝ》と私《わたくし》と内職を致して稼ぎましても勝手が知れませんから、何をしても損ばかりいたし、お恥かしい事でございますが、お米さえも買う事が出来ません所から、お金の抵当《ていとう》に此処《こゝ》の伯母さんに此の観音様を取られましたから、母は神仏《かみほとけ》にも見離されたかと申して泣き続けて居りますから、どうか母の気を休めようと思い、旦那を取ると申しまして、実は伯母さんから観音様を取返したのでございます」
清「どうも誠にどうも思いがけねえ事で、水の流れと人の行末《ゆくすえ》とは申しますが、あれ程な御大家《ごたいけ》が其様《そんな》にお成りなさろうとは思わなかった、お父様《とっさま》は七年|前《あと》国を出て、へいどうも、何しろお母《っか》さんにお目にかゝり、委《くわ》しいお話も伺《うかゞ》いますが、私《わっち》は家
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