でなすってはいけませんよ」
清「なんだなア、いけませんでは困るじゃないか、冗談云っちゃアいけねえぜ」
ま「誠に棟梁さん相済みませんが、下の伯母さんに三円お金の借《かり》がございまして、そのお金の抵当《かた》に、身に取りまして大事な観音様をお厨子《ずし》ぐるみに取られ、母は眼病でございまして、其の観音様を信じ、又親父が遺《のこ》してまいりました遺物《かたみ》同様の大事な品でございますから、是を取られては神仏《かみほとけ》にも見離されたかと申して泣き倒れて居りまして、余《あんま》り泣きましては又眼にも身体にもさわろうかと存じまして、子の身として何うも見ては居《お》られませんから、実は旦那を取りますからお厨子を返して下さいと伯母さんには済みませんが嘘をつき、五円|戴《いたゞ》いた内で、三円伯母さんにお返し申し、お厨子を返して貰いましたから、弐円の金子は棟梁さんにお返し申しますから、あと三円のところは、何卒《どうぞ》お慈悲に親子三人|不憫《ふびん》と思召《おぼしめ》し、来年の正月までお貸しなすって下さる訳には参りますまいか、申し何うぞお願いでございます」
清「えゝ、それは誠にお気の毒だ、お前の云うことを聞いて胸が一杯になった、三円の金に困って、お父《とっ》さんの遺物《かたみ》の守りを婆さんに取られ、旦那取《だんなどり》をすると云わなければお母《っか》さんが歎《なげ》くと云って、正直に二円返すから、あとの三円は貸して呉れろと、そう云われては貸さずには居《い》られない、色気も恋も醒《さ》めてしまった、余《あんま》り実地過《じっちすぎ》るが、それじゃア婆《ばゞあ》が最《も》う五円くすねたな、太《ふて》え奴だなア、それはいゝが、その大事な観音様と云うのはどんな観音様だえ、お見せ」
ま「はい、親父《おやじ》の繁昌《はんじょう》の時分に彫《ほ》らせたものでございます」
 と云いながら差出す。
清「結構なお厨子だ、艶消《つやけ》しで鍍金金物《めっきがなもの》の大《たい》したものだ」
 と開《ひら》いて見れば、金無垢《きんむく》の観音の立像《りつぞう》でございます。裏を返して見れば、天民《てんみん》謹《つゝし》んで刻《こく》すとあり、厨子の裏に朱漆《しゅうるし》にて清水助右衞門と記《しる》して有りますを見て、清次は小首を傾け。
清「此の観音さまは見た事があるが、慥《たし》か持主《もちぬし》
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