意の所から色々才覚をして出した所が目的が外《はず》れてしまって仕方がないが、百円の処は、是だけは君がどうしても返して呉れなければ、僕の命の綱で、只今|斯《か》くの如き見る影もない食客《しょっかく》の身分だから、どうかお察し下さい」
丈「返して呉れと云っても仕方がないわ、それに此の節は勧解沙汰《かんかいざた》[#「勧解」に欄外校注:裁判官が説諭して示談にせしむること]が三件もあり、裁判所沙汰が二件もあるし、それに控訴もあるような始末だから、何と云っても仕方がない」
又「裁判沙汰が十《とお》有ろうが八つ有ろうが、僕の知ったことではない、相済まぬけれども是だけの構えを一寸《ちょっと》見ても大《たい》したものだ、それに外を廻って見ても、又座敷で一寸茶を入れるにも、それその銀瓶《ぎんびん》があって、其の他《ほか》、諸道具といい大した財産だ、あの百金は僕の命の綱、これがなければ何《ど》うにも斯《こ》うにも方《ほう》が付かぬ、君の都合は僕は知らないから、此の品を売却しても御返金を願う」
丈「この道具も皆抵当になっているから仕方がないわさ」
又「御返金がならなければ止《や》むを得んから、旧来御懇意の君でも勧解《かんかい》へ持出さなければならぬが、どうも君を被告にして僕が願立《ねがいた》てるというのは甚《はなは》だ旧友の誼《よし》みに悖《もと》るから、したくはないが、拠《よんどころ》ない訳だ」
丈「今と云っても仕方が無いと申すに」
又「はて、是非とも御返金を願う」
と云って坐り込んで、又作も今|身代限《しんだいかぎ》りになる訳でいると云うから、身代限りにならぬうちに百円取ろうとする。春見は困り果てゝ居ります所へ入って来ましたのは、前橋竪町の御用達の清水助右衞門という豪家《ごうか》でございます。此の人も色々|遣《や》り損《そこ》なって損《そん》をいたして居りますが、漸々《よう/\》金策を致しまして三千円持って仕入れに参りまして、春見屋へ来まして。
助「はい、御免なさいまし、御免下さいまし」
丈「どなたか知らぬが、用があるならずっと此方《こっち》へ這入っておくんなさい」
助「御免を蒙《こうむ》ります、誠に御無沙汰しました、助右衞門でございます」
丈「おゝ/\、どうもこれはなつかしい、久々で逢った、まア/\此方《こっち》へ、いつも壮健で」
助「誠に存外御無沙汰致しましたが、貴方様《あなた
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