うも見違えるように大きくおなりだねえ、今女どもが取次をしたが、新参で何も心得んものだから知らんが、お父《とっ》さんは前々月《せん/\げつ》の二日に一寸《ちょっと》私の所へお出《い》でになったよ」
重「左様でございますか、先刻《せんこく》お女中が此方《こちら》へ来《き》ねえと云いましたから、はてなと思いやしたのは、宅《うち》を出る時は春見様へ泊り、遅くも十一月の末には帰ると云いましたのが、十二月になっても便《たよ》りがありやせんから、母も心配して、見て来るが宜《い》いというので、私《わし》が出て参りまして」
丈「成程、だが今云う通り一寸《ちょっと》お出でになり、どう云う訳だか取急ぎ、横浜へ買出しに往《ゆ》くと云って、直《す》ぐ往《ゆ》こうとなさるから、久振《ひさしぶり》で逢って懐かしいから、今晩一泊なすって緩々《ゆる/\》お話もしたいと留《と》めても聞入れず、振り切って横浜へいらしったが、それっ切り未《ま》だお宅《たく》へ帰らんかえ」
重「へい、そんなら親父《おやじ》は来たことは来たが、此方《こちら》には居ねえんですか困ったのう、文吉どん」
文「もし旦那、御免なせえ、私《わっち》は元|錨床《いかりどこ》と云って西洋床をして居りました時、此方《こちら》の二階のお客に旧弊頭《きゅうへいあたま》もありますので、時々お二階へ廻りに来た文吉という髪結《かみゆい》でございます」
丈「はアお前が文吉さんか、誠に久しく逢いませんでした」
文「先々月の二日清水の旦那が此方《こちら》へお泊りなすって、荷物をお預け申して湯に入《は》いるって錨床へ入《い》らしったところが、私《わっち》が上州を廻っている時分御厄介になった清水の旦那だから、何御用でというと金を持って仕入れに来たが、泊る所に馴染《なじみ》がねえから、春見屋へ泊ったと仰《おっ》しゃったから、それはとんでもねえ処へ、いえなに宜《よ》い処へお泊りなすったという訳でねえ」
丈「一寸《ちょっと》お出《い》でにはなったが、取急ぎ横浜へ往《ゆ》くと云ってお帰りになった」
文「もし先々月の二日でございますぜ」
丈「左様《そう》よ」
文「あの清水の旦那が金を沢山《どっさり》春見屋へ預けたと仰しゃるから、それはとんだ処へ、いえなにどうも誠にどうもねえ」
丈「来たことは来たが、お連《つれ》か何か有ると見え、いくら留《と》めても聞入れず、買出しの事|故
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