うから宜《い》けないんだ」
武「何も心配な事はない何かえ夫《そ》れは」
△「へえ………誠にどうも、喰《くれ》え酔って居まして大きに不調法を致しました、真平《まっぴら》御免なさいまし」
武「いや不調法な事は些《ちっ》ともない、柳番屋の処へ袖乞いに出る娘に武家《さむらい》が金子を遣ったんだな」
△「へえ、何うも明瞭《はっき》り分りませんので」
武「いや分らん事はない、今お前が話をしたではないか、何《なん》と云う者の娘だえ夫《そ》れア」
×「殿様|此者《これ》は喰《くら》い酔って居まして唯詰らねえことを云ってたんで出鱈まえで、唯|茫然《ぼんやり》、変な話なんで、嘘を云ったんで」
武「なに嘘のことはない、何も心配になる事はないから、私《わし》に聞かすれば宜いのだ、京橋の何処《どこ》の者だえ……」
△「へえ」
武「云わんか、いま貴様が云った事は衝立の蔭で聞いて居ったが、少し調べる事が有るから聞くのだ」
×「だから己が先刻《さっき》から、斯《こ》う云うことを云って係合に成ったものが有るから大きな声をして云うなと云うのだ」
△「本当に殿様ア……私《わっち》ア明瞭り知らないんで」
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