《かたき》を強いお上《かみ》に取って貰わなければならないから、何うぞ私《わたくし》を吉原へ女郎に売って下さい、格子先へ立つ人の中にあの武家に似た人が有ったら騙《だま》して捕まえて亭主の敵を討つ」
と云い張り、幾ら留めても肯《き》かず遂に江戸町《えどちょう》一丁目|辨天屋《べんてんや》の抱えと成って名を紅梅《こうばい》と改め、彼《か》の武士《さむらい》の行方を探すと云う亭主の敵討《かたきうち》の端緒でございます。
二
今日《こんにち》の処は、長谷川町の番人喜助の続きとお話が二途《ふたみち》に分れますが、後《のち》に一つ道に成る其の前文でありますからお聴き悪《にく》い事でございましょう、扨《さて》築地《つきじ》の本郷町《ほんごうちょう》と小田原町《おだわらちょう》、柳原町《やなぎはらちょう》と町内が繋《つな》がって居りますが、小田原町の家主《やぬし》に金兵衞と申す者がございまして、其の頃は家号《いえな》を申して近江屋《おうみや》の金兵衞と云う処から近金《ちかきん》と云われます、年齢《とし》は四十二に成りますが、真実な人で、女房をお蓮《れん》と云って三十八に成ります、家主《いえぬし》の内儀《かみ》さんは随分|権式《けんしき》ぶったものでございますが至って気さくなお喋りのお内儀さんで、夫婦寄ると子が無いので其の噂ばかりして居ります。
蓮「旦那え/\、もう何《ど》うも何《な》んですね、夫婦の中に子の無い位心細いものは無いと思って居ます、お互に年齢《とし》を取って、来年はお前さんは四十三だよ」
金「年齢《とし》の事を云うと心細くなるから其んな事を云うな」
蓮「だってさ、夫婦養子をしても気心の知れない者に気兼《きがね》をするのも厭《いや》だし、五人組の安兵衞《やすべえ》さんなどは、無い子では泣きを見ないから寧《いっ》そ子の無い方が宜《い》いと云う側から子が出来て、今度ので十二人だてえます」
金「あの人は子福者《こぶくしゃ》だのう」
蓮「其の癖お内儀さんは痩ぎすで子は無さそうだのに」
金「お前《めえ》などはポッチャリ肥満《ふと》ってゝお尻も大きいから子は出来そうだが」
蓮「授かりものですね、子がなければ夫婦養子を仕なければ成りませんが、夫婦養子と云うよりも私の考えじゃア一人娘を貰って置いて、お前|様《さん》には甥《おい》だが竹次郎《たけじろう》
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