てんじんしやない》の楊弓場《やうきゆうば》の高橋《たかはし》のおかねの、彼《かれ》が大層《たいそう》君《きみ》を誉《ほ》めて居《を》つたぞ、杉山君《すぎやまくん》は男振《をとこぶり》は好《よ》し程《ほど》が好《え》いから何《なに》を着《き》ても能《よ》くお似合《にあひ》なさるツて、ナニ真実《ほん》の事だぞ」。主人「エヘヽヽ此辺《このへん》では如何《いかゞ》さまで。書生「ヤー是《これ》は好《よ》いのー幾許《いくら》ぢや、うむ夫《それ》は安いの、買《か》うて置《お》かう。銭入《ぜにいれ》から代《だい》を払《はら》つて立帰《たちかへ》りました。其跡《そのあと》へ入違《いれちが》つて来《き》たのは、織色《おりいろ》の羽織《はおり》、結城博多《ゆうきはかた》の五|本手《ほんて》の衣服《きもの》に茶博多《ちやはかた》の帯《おび》を締《し》めました人物、年齢四十五六になる品《ひん》の好《よ》い男《をとこ》。客「アヽ御免《ごめん》なはれ。若「入《い》らつしやいまし。客「アヽ大分《だいぶ》何《ど》うも御念入《ごねんいり》ぢやなモシ、お棟上前《むねあげまへ》に此《この》お門口《かどぐち》を通《とほ》つたが実《じつ》に何《ど》うも豪《えら》い木口《きぐち》を入《い》れやはつて恐入《おそれいり》ました、上方《かみがた》から吉野丸太《よしのまるた》や嵯峨丸太《さがまるた》を取寄《とりよせ》ての御建築《ごけんちく》とは豪《えら》いものや、実《じつ》は何御商法《なにごしやうはふ》をなさるのかと考《かんが》へてゐました、中《なか》には彼《あ》れは無職業《しもたや》さんや、ナニさうぢやない質屋《しちや》さんや抔《など》云《い》うて色々《いろ/\》お噂《うはさ》を云《い》うて居《ゐ》やひやりましたが、何《ど》うも世辞屋《せじや》さんとは恐入《おそれい》つたもんです、段々《だん/″\》承《うけたま》はれば蓄音器《ちくおんき》から御発明《ごはつめい》になつたと云《い》ふ事を聞きましたが豪《えら》いもんや、何《ど》うしても是《これ》からの世界に世辞《せじ》と云《い》ふものは無ければならぬ、必要《ひつえう》のものぢや、と云《い》ふ所にお心を附《つ》けて蓄音器《ちくおんき》から斯《か》ういふ発明《はつめい》をなさると云《い》ふは、当家《こちら》の御主人《ごしゆじん》に夫《それ》だけの学問《がくもん》もなければならず、お智恵《ちゑ》もなければ出《で》けんことぢやが、何《ど》うも結構《けつこう》な御商法《ごしやうはふ》ですな、若《も》しアヽー何《ど》うも此《この》お襖《ふすま》は何《なん》どす、銀錆《ぎんさび》で時代が十|分《ぶん》に見えますな、此方《こツちや》は古渡更紗《こわたりさらさ》の交貼《まぜはり》で、へえー何《ど》うも能《よ》く此位《このくらゐ》お集めになりましたな、へい、戴《いたゞ》きます、何《ど》うも此《この》お煎茶《せんちや》の器械からお茶碗《ちやわん》からお茶托《ちやたく》まで結構尽《けつこうづく》め、中々《なか/\》お店や何《なに》かで斯《か》ういふものを使ふお店は無い事で、何《ど》うもお菓子まで添《そ》へられて恐入《おそれいり》ます、へえ頂戴《ちやうだい》を……何《ど》うも流石《さすが》は御商売柄《ごしやうばいがら》だけあつて御主人《ごしゆじん》は愛嬌《あいけう》があつてにこやかなお容貌《かほつき》、番頭《ばんとう》さんから若衆《わかいしう》小僧《こぞう》さんまで皆《みな》お子柄《こがら》が宜《え》いなモシ、実《じつ》に惜《を》しいやうですな、エヘヽヽ表《おもて》を通《とほ》る女子達《をなごたち》は皆《みな》立留《たちどま》る位《くらゐ》のもんで、斯《か》ういふ珠揃《たまぞろひ》のお方々《かた/″\》が居《ゐ》て世辞《せじ》を商《あきな》ひして居《ゐ》らつしやる処《ところ》へ買《かひ》に来《き》ましたのは手前共《てまいども》の仕合《しあはせ》で、世辞《せじ》の好《よ》いのがありましたら二三個《ふたつみつ》頂戴《ちやうだい》しませうか。主人「これ/\早く箱を片附《かたづけ》なよ。客「ナニ片附《かたづけ》ぬでも宜《よろ》しい、手前《てまい》は世辞《せじ》を買《かひ》に来《き》たのです。主人「イヽエ何《ど》ういたして手前共《てまいども》では仲間売《なかまうり》は致《いた》しませぬ。
底本:「明治の文学 第3巻 三遊亭円朝」筑摩書房
2001(平成13)年8月25日初版第1刷発行
底本の親本:「定本 円朝全集 巻の13」世界文庫
1964(昭和39)年6月発行
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2009年8月18日作成
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