*「壁下地の小竹をとりつける職人」
 女「貴方は、なんでございますか、深見新左衞門様の若様でございますか」
 新「えゝ何あのお前は勇治を御存知かえ」
 女「ハイ私は勇治の娘でございますよ、春と申しまして」
 新「はあ然《そ》う」
 春「私はね、もうねお屋敷へ一度参った事がございますがね、其の時分は幼少の時で、まアお見違《みそれ》申しました、まだ貴方のお小さい時分でございましたからさっぱり存じませんで、大層お立派におなり遊ばしたこと、お幾才《いくつ》におなり遊ばした」
 新「今年二十三になります」
 春「まアお屋敷もね、何だか不祥《いや》な事になりまして、昨年私の親父も亡なりましたが、お屋敷はあゝなったが、若様は何《ど》うなされたかお行方が知れぬが、ひょっとして尋ねていらっしゃったら、永々《なが/\》御恩を受けたお屋敷の若様だから何《ど》んなにもして上げなければならん、と死際《しにぎわ》に遺言して亡なりましたが、貴方が若様なれば何うか此方《こちら》へ一晩でもお泊め申さんでは済《すみ》ませんから」
 新「やれ/\是は/\左様かね、図らず勇治の処へ来たのは何より幸《さいわい》で、拙者は深見新
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