レ塩煎餅《しおせんべい》の壺へ足を踏みかけて、まアお前さん大変|樽柿《たるがき》を潰したよ」
 新「誠に済まないが、ツイ踏んで二つ潰したから、是は私が買って、あとは元の様に積んで置きます、あの出刃庖丁は何《なん》でげすな」
 女「あれは柿の皮を剥《む》くのでございますよ、何《ど》うも困りますね、だが買って下さればそれで宜《よ》うございますが、けれども貴方草鞋をおとんなさいナ」
 新「何《ど》うか、樽柿は幾個《いくつ》でも買いますが、何うかお茶でも水でも下さい」
 女「お茶は冷《つめと》うございますが、ナニ沢山買って下さらないでも、潰れただけの代を下さればようございます」
 新「えゝ御家内|此処《こゝ》は何《なん》と云う処でございますえ」
 女「此処は本所松倉町でございます」
 新「あゝ左様かえ、少しお聞き申すが、前々《ぜん/″\》小日向|服部坂《はっとりざか》の屋敷に奉公を致して居った勇治と云う者が此の近処《きんじょ》に居りませんか、年は今年で五十八九になりましょうか、慥《たし》か娘が一人あって其の娘の夫は*※[#「操のつくり」、第4水準2−4−19]掻《こまいかき》と聞きましたが」

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