せん。なれども故郷忘じ難く、黒坂一齋の相果てゝからは、何《ど》うも朋輩《ほうばい》の交際《つきあい》が悪うございますから、もう二三年も経ったから知れやしまいと思って、又奥州仙台から、江戸表へ出て来たのは、十一月の丁度二十日でございます。先《ま》ず浅草の観音様へ参って礼拝《らいはい》を致し、是から何処《どこ》へ行《ゆこ》うか、何《ど》うしたらよかろうと考える中《うち》に、ふと胸に浮んだのは勇治《ゆうじ》と云う元屋敷の下男で、我が十二歳ぐらいの頃まで居たが、其の者は本所辺に居ると云う事で、慥《たし》か松倉町と聞いたから、兎も角も此の者を尋ねて見ようと思い、吾妻橋《あづまばし》を渡って、松倉町へ行《ゆ》きます。菅《すげ》の深い三度笠を冠《かぶ》りまして、半合羽《はんがっぱ》に柄袋《つかぶくろ》のかゝった大小を帯《たい》し、脚半甲《きゃはんこう》がけ草鞋穿《わらじばき》で、いかにも旅馴れて居りまする扮装《いでたち》、行李《こうり》を肩にかけ急いで松倉町から、斯《こ》う細い横町へ曲りに掛ると、跡からバラ/\/\と五六人の人が駈けて来るから、是は手が廻ったか、しくじったと思い、振返って見ると、案の
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