九十四
塚前村観音堂へ因果塚を建立致し、観音寺の和尚|道恩《どうおん》が尽《ことごと》く此の因縁を説いて回向を致しましたから、村方の者が寄集まって餅を搗き、大した施餓鬼《せがき》が納まりました。斯《か》くて八月十八日施餓鬼|祭《まつり》を致しますと、観音寺の弟子宗觀が方丈の前へ参りまして、
宗「旦那様」
道「いや宗觀か、なんじゃ」
宗「私はお願いがありますが、旦那さまには永々《なが/\》御厄介に相成りましたが、私は羽生村へ帰り度《と》うございます」
道「ウン、どうも貴様は剃髪《ていはつ》する時も厭がったが、出家になる因縁が無いと見える、何故羽生村へ帰り度《た》いか、帰った処が親も兄弟もないし、別に知るものもない哀れな身の上じゃないか、よし帰った処が農夫《ひゃくしょう》になるだけの事、実《じつ》何《ど》うしても出家は遂《と》げられんか」
宗「はい私は兄と姉の敵が討ちとうございます」
道「これ、此間《こないだ》もちらりと其の事も聞いたから、音助にも宜《よ》う宗觀にいうてくれと言附けて置いたが、敵討という心は悪い心じゃ、其の念を断《き》らんければいかん、執念して飽くま
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