ではありませんよ」
 と云われ新吉は打萎《うちしお》れ溜息を吐《つ》きながらお賤に向い、
 新「何《ど》うだえお賤」
 賤「私も始めて聞いたよ、そんならお母《っか》さんお前がお屋敷へ奉公に上《あが》ったら、殿様のお手が附いて私が出来たといえば、其のお屋敷が改易にさえならなければ私はお嬢様、お前は愛妾《めかけ》とか何《な》んとか云われて居るのだね」
 尼「お前はお嬢様に違いないが、私は追出されてでも仕舞う位の訝《おか》しな訳でね」
 新「へい其の小日向の旗下とは何処《どこ》だえ」
 尼「はい、服部坂上の深見新左衞門様というお旗下でございます」
 といわれて新吉は恟《びっく》りし、
 新「エヽ、そんなら此のお賤は其の新左衞門と云う人の胤《たね》だね」
 尼「左様」
 新「そうか」
 と口ではいえど慄《ぞっ》と身の毛がよだつ程恐ろしく思いましたは、八年|前《ぜん》門番の勘藏が死際《いまわ》に、我が身の上の物語を聞けば、己は深見新左衞門の次男にて、深見家改易の前《まえ》に妾が這入り、間もなく、其の妾のお熊というものゝ腹へ孕《やど》したは女の子それを産落すとまもなく家が改易に成ったと聞いて居たが
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